マニーシャ上郷
…はは。その話、マニーシャ上郷が聞いたら面白がるだろうな。
あれ、知らない?
話したことなかったっけ、マニーシャ上郷のこと。
そうか、てっきり話したもんだと思ってたよ。
俺の友達でな、マニーシャ上郷は。小学生の時のクラスメイトだったんだけど。
最初の組で一緒でさ。席の近いのもあって、すぐに仲良くなったんだよ。最初は、変わった名前の奴だなってくらいの印象で、まあよく遊んでた。
そんでな、一年生の最初の運動会で、そいつ、相手の組の鉢巻を全部スッたんだよ。それで相手の組の奴らは自分の色が何なのかわかんなくなっちまって、俺たちの組の不戦勝になった。
それを、マニーシャ上郷は九年間続けたんだ。
九年間、マニーシャ上郷は勝ちっぱなし。その間に盗んだ鉢巻を全部何処だかに売っ払った金で、あいつは今でも暮らしてる。
で、高校進んでからは連絡も疎らになってたんだけど、それでも半年に一回か二回くらいは会っててさ。
何年か前に、あいつか急に言い出したんだよ。「カニ玉の解を求めるんだ。求めなきゃいけないんだ」って。
それで、上郷は単身でシャンハイだかどっかに飛んじまった。二十やそこらで独り残されたマニーシャは不安で仕方なかっただろうよ。俺は出来るだけ一緒にいて、話を聞いてやるようにした。俺にはそれくらいしか出来なかったからな。それでもマニーシャはずっと寂しそうだったし、俺には決して癒せないマニーシャの孤独を、どうしようもない寂しさを、何より俺自身が、切に感じたんだ。
最近になってやっと、やつは帰ってきた。どうやら「カニ玉の解」とやらは突き止めたらしくて、それを境にカニータ前郷と名乗るようになった。
そりゃその時は怒ったよ。なんで何年も連絡もせずにいたんだって、カニータを放っておいたんだって。
でも結局、最後は一緒に酒飲んで笑って、元の通りの友人に戻った。カニータ前郷の憎めないのはそういう所なんだよ。
今でも偶に会ってはバカみたいな思い出話なんかして笑い合ったりしてる。俺とカニータ前郷がまだ若者だった頃の話をな。
でもな。
なんか、違うというか、つまらないんだよな。
俺は、マニーシャ上郷の方が、好きだったよ。