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母とグダグダする土曜日の朝は、あたたかくて、太陽の匂いがする。
土曜日の朝。
私が目覚めると、隣で母が私をじっと見つめていて、ギョッとしたことがある。
というか、休みの日はこれが日常茶飯事だった。
うちは、和室に布団、川の字で寝ていた。
自分の部屋にベッドもあり、思春期のときはそこで寝ていたが、気づけばエアコンが効く和室でみんな寝るようになっていた。
そうそう、それで土曜日の朝の思い出を。
部活が始まる前だから、小学生のときのことだ。
私が目を覚ますと、母がじっと私の顔を見ていて、「おはよう」と言う。
そして、私の鼻筋をスーッと撫でて、「鼻高くなーれ」っておまじないしてたり、「あ、こんなところにそばかすが増えてる!」と教えてくれたり、なにかしら顔で遊ぶ。
それでその後、寝室のテレビをつけて、みんなで布団を被ったまま『うたっておどろんぱ』をグダグダと視聴する。
「どのお兄さんがすき?」「うーん緑かなぁ」というたわいもない話をして、特に歌うことも踊ることもなく、ただみんなでゴロゴロしながら観る。
それでそのあと「よっこらせ」と起きて、寝間着のままでフレンチトーストを作る。
「ね~何枚使う?」その時の食パンの残り具合を見て、3人で2〜3枚を使って作る。卵は3つ。「今日は4つにしちゃうか」という日もある。
ボウルに卵を割って、溶いて、牛乳と砂糖を入れて、さらに混ぜる。
測りなんて使ったことない。
卵は、私は白身と黄身が混ざりきらないくらいが好き。だけど、みんなはちゃんと混ぜたほうが好きだろうから、ちゃんと混ぜるようにしている。
食パンは4つの正方形に切る。
ボウルの卵液にその食パンたちを2つずつくらいいれて、長方形の卵焼きフライパンで焼く。
最初のパンを卵液に浸しすぎると、最後の方のパンのための卵液が残らなくなってしまうから、注意が必要だ。
そういえば始めの頃はフライパンにマーガリンを塗っていたが、いつからかバターを使うようになっていたな。
基本は私から1枚作り、次に姉が1枚作る。母は、気が向いたら作ってくれる。砂糖少なめで作ることが多いから、味は全然しないことが多くて、結局焼き上がった後に、砂糖を振りかけたりしてしまう。
でも、「美味しいね」「朝からおしゃれだね」と言ってみんなで食べる。
最後の一枚は姉とじゃんけんして取り合っていたが、いつからか「ハンブンコ」を覚え、さらに「今日はしぃが食べな」「今日はおねいが食べて」という”譲る”というスキルまで身についた私達であった。
私はボウルに残ったほんの少しの卵液で作る甘めの卵焼きが好きだった。
だから、小学校高学年になったときには、わざと卵液を残すという技を身につけていた。
いま、私も、母になった。
朝、私が目を覚ますと、隣ですやすやと眠る我が子がいた。
もちもちの肌。くるんとしたまつ毛。眉毛は垂れていて、私に似ているのかなぁなんて思って、まじまじと見つめる。
そのとき、母の気持ちがわかった気がした。
朝起きて、私の顔を見ていたこと。
愛おしいこと。
もう少し大きくなったら、一緒にグダグダテレビを見て、フレンチトーストを一緒につくろうね。
そう思って、今しかない時間を愛おしみ、土曜日の朝を過ごす。