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②オートクチュールな彼女はチーププレタポルテな自分に興味津々

実体験に基づいたフィクションです。

皇族みたいなオートクチュールを颯爽と着こなすお嬢と、関東某所のお茶屋さんにおもむいた。

そこのお店でお茶を購入するとスタンプカードに印が押され、そういったお店を数店まわってスタンプを集めると景品がもらえた。

そうした経験が一度もないお嬢は、やってみたいと言い出したので私は付き合うことにした。

店頭では数種類のお茶を試飲することができた。私たちは試飲しながら、どれを買って帰るか話し合っていた。

「“スタンプ”が欲しいだけなんでしょ?」
初老の店長はニヤッと笑いながら、私たち二人を見てきた。

私は内心カチンとしながら、あいまいな笑顔を浮かべた。

しかし、店長はなおも
「どれでもいいんでしょ?どれを買ってもスタンプは一緒だよ。」
と言ってきた。

私は悔しかった。自分がバカにされるのは仕方ないにしても、お嬢をバカにするのは許せなかった。

「お嬢は、茶の味がわかっているんだ!」

私が声に出して抗議をしようとしたとき、お嬢が聞きなれない言葉をつらつらと並べだした。

どうやら壁に掛かっている書を読んでいるらしかった。

お嬢が書を読み終えると、店長は、
「ほほう。」
と言った。

お嬢は、
「徳川幕府が書状を出されたんですね。」
と言った。

その後、お嬢と店長は、私が聞きなれない言葉のやり取りをいくつかした。

二人の話を簡単に言うと、このお店は幕府に認められた特別なお茶屋さんということらしかった。

お店を出て車に乗り込むと、お嬢が言った。
「何だかモヤモヤする。この感情は何かしら?」
と言ってきた。

私は、
「あの店長は『おまいらはスタンプ目当てで来ただけだから、お茶なんてどうでもいいと思っているんだろう?お茶はどれも一緒の味がすると思っているんだろう?』って言っていたんだよ。」
と言った。

お嬢は、
「それは腹立たしいわね。」
と言った。お嬢には下々の嫌みは通じなかったらしいので、私は正しく“通訳”をしなくても良かったのかなと少し後悔した。

帰り道、夏祭りをしている会場の近くを通った。お嬢が見ていきたいというので、私は付き合うことにした。

なかなか大きい会場で、夜店がたくさん出ていた。

お嬢にフランクフルトや綿あめをすすめてみたが、
「あの人たちのように、立って歩きながら器用に食べられない。」
というので、射的をすすめた。

「射撃ならやったことがあるわ。」

とお嬢が言った。いや、“撃”じゃなくて“的”なんですけどというツッコミを私は飲み込んだ。

“経験者”のお嬢は景品を手に入れ、うれしそうだった。

立ち食い以外でお嬢が喜びそうなものはと、次に私が目をつけたのは、金魚すくいだった。

初めての金魚すくいに悪戦苦闘していたが、店主から教わるとお嬢は徐々にコツをつかみ、5本目のポイでは5匹つかまえることに成功した。金魚はお店に置いて帰ることにした。

少し歩いていると、また別の金魚すくいの店を見つけた。お嬢は、
「あそこでもやりたい!」
と言った。

私は、
「私はお面を見てくる。」
と言ってその場を離れた。私は天才バカボンのパパのお面を買って、金魚すくいのお店に向かった。

お嬢はちょうど金魚すくいを終えたようで、私の方へ向かってきた。

「『もう来ないで!』って言われた。」
お嬢は苦悶の表情を浮かべていた。

私は、
「誰に⁉」
と聞いた。

「金魚すくいの店主に。」

「1回でどのくらい取ったの?」

「12匹。」

「“遊び”でやった?つまり、つかまえた金魚は店に置いてきた?」

「うん。やる前に、持ち帰らないことは伝えていたのよ。」

「ああ、それは、あの店主なりの誉め言葉だったんだと思うよ。」

「誉め言葉?あれが⁉どうして⁉」

「うん。それが誉め言葉なの。もちろん、店主はお嬢が金魚を持ち帰らないことは理解してたんだけど、『100円で12匹も持ち帰られたら、こっちの商売上がったりだよ。もう来ないで。それにしても、お嬢さん上手だね。』って言いたかったんだと思うよ。」
と私は言った。

彼女は、何だか腑に落ちない顔をした。庶民のジョークはお嬢を悲しませただけだった。

私は、天才バカボンのパパのお面をかぶると、お茶屋さんに飾られた書について、

「よく読めたのだ。すごいのだ。」
と言った。

それから、東京に着くまでは、

「現代国語の試験で、森鴎外の作品が出てくるのは許せないのだ。森鴎外は古文なのだ。」
という私に対して、

「いいえ、森鷗外は現代国語です。非常に読みやすいです。」
とキッパリ言うお嬢とで意見がわれたのだけど、私がかぶるお面や私の語尾にツッコミを入れることは、ついになかったのである。

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