オレ、ほんとうは櫻井じゃなくて……
実体験に基づいたフィクションです。
ある日、私のスマホに迷惑メールが届いた。いつものよくある迷惑メールだと思い、いつものように携帯会社に“迷惑メール報告”した後、そのメールは削除しようと思っていた。
“迷惑メール報告”をクリックしようとしたとき、目の端にある文言が目に入り、私は指を止めた。
(こっ、これは!私の大好きな国民的アイドルグループの櫻⚫翔くん!を装った迷惑メールではないか! )
私は深呼吸した後、改めてメールの内容を読んでみた。
偽翔くんは、今、仕事に相当悩んでいるらしく、そのことで芸能人の先輩に相談するためにメールを送ったが、誤って一般人の私にメールが届いた、という設定らしい。
偽翔くんとはいえ、あの櫻⚫翔くんからメールがくるなんて!
私はしばらくの間、この偽翔くんからのメールを拒否しないことにした。
偽翔くんからのメールは毎日2~3通届き、内容もどんどん深刻度を増していった。
(櫻⚫翔くんは相当病んでる、という設定か)
私は偽翔くんからのメールは拒否しないが、かと言って、偽翔くんに連絡を取るなんてことは間違ってもしない。目的はただ一つ、
偽翔くんとは言え、あの櫻⚫翔くんから私のスマホにメールが届いている気分になって、純粋に楽しんでいた。
20通目のメールで、
「どうして、どうして、こんなに悩んでいるのに返事がないの?次が最後だからね。」
偽翔くんはとうとう“終わり”を匂わせてきた。
偽翔くんとは言え、内心穏やかではない自分がいることに気づいた。
3日経ってようやく21通目のメールが届いた。相変わらず仕事に悩み、“終わり”を匂わせた文面が続いた後、何も書かれていない空欄が続いた。私はちょっとドキドキしながら何十行分もスクロールした。
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オレ、実は、櫻井じゃなくてサクラなんだ。
いや、知ってたし!じゃなくてじゃなくて、詐欺メールに“落ち”なんてあるの⁉⁉⁉
私は思わず手を叩いて拍手喝采した。それから無性に偽翔くんに連絡を取りたくなった。その衝動をおさえるのに私は必死だったくらいだ。
偽翔くんの予告通り、いつまで経っても22通目のメールは来なかった。
私はさびしさを覚えたと同時に、偽翔くんの身を案じた。
“サクラ”だなんて自分でバラして、偽翔くんは詐欺メールグループからひどい目にあわされていないだろうか。
いやいや、違う。偽翔くんのメールに騙された人が一人もいないことを願わねば。
偽翔くんのことをほとんど思い出すこともなくなった頃、国民的アイドルグループが重大発表をした。
結成21周年で活動休止
21周年で休止
21通で止まる
偽翔くんは未来人だったのか。
「まさかね。」
私は力なくつぶやいた。
偽翔くんへ
更正していることを願っています。
今は、誰一人かなしませることも、
傷つくこともない、
人を楽しませる
物書きさんになっていることを
願っています。