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緊急事態宣言があけて、県をまたいでの移動許可が出てから飛行機に乗った話。

“国内最感染地域”の中の小さな駅前から、タクシーに乗って、大きな駅の西口へ行くように運転手にお願いした。

1駅分で1300円もかかったが、大きなスーツケースを持っていたので、必要経費だと割りきった。

2000円を出して、
「お釣りは結構です。」
と言うと、初老の運転手は何度も何度も頭を下げてお礼を言い、重たいスーツケースをトランクから出してくれた。

東京オリンピックを見据えて、タクシー業界は運転手をたくさん雇用したが、オリンピックの延期、新型コロナウイルス感染防止による残業・接待の激減、緊急事態宣言によるテレワーク・リモートワークの増加で、大打撃をうけていた。

羽田空港行きのバス乗り場に着いたが、係員に、
「新型コロナウイルスの影響で大幅に便数を減らしているため、11時15分までバスがない。」
と言われてしまった。

今、ちょうど9時である。またタクシーに乗って羽田まで行こうとも思ったが、朝のラッシュが終わったところなので、電車で行くことにした。

大きな駅構内は、まだまだ通勤通学客がたくさんいたが、スーツケースをひいている客は私一人であった。

山の手線の上野東京駅方面に乗った。

浜松町駅で降りて、東京モノレールに乗り換えた。

客は99%日本人で、それも男性会社員風ばかりであった。乗っている客が少なかったこともあり、皆、間隔をあけて座っていた。

車内のアナウンスで、マスクの着用を義務づける以外に、
「会話はお控えください。」
と流れていたが、通勤客と思われる話し声が遠くに聞こえた。

国際線がある第3ターミナルで降りる客はほとんどいなかった。

私は、第2ターミナルを降りて、出発ロビーに進んだ。

平日の午前中ということもあり、客はまばらだった。

ほとんど並ぶこともなく、搭乗手続きも、スーツケースを預けることも早めに済ませることができた。

飲食店は8割くらいが開いていて、客はまばらか、ゼロというところもあったが、私はまだまだ外食する気分にはなれなかった。

お土産屋も、どの店もほとんど客がいなかった。

私は、日本一高級な果物が売られていることで有名な店に入り、ゼリーセットを買った。

午前11時で初めて購入した客だったのか、スタッフは何度もお礼を言ってきた。

彼女や奥さん、はたまた女性社員に買うのか、私が購入したのを見届けると、男性会社員風が二人ほどその店で購入していた。私はちょっとだけ貢献できた気分になって嬉しかった。

セキュリティチェックを抜け、搭乗口の近くのソファに腰かけた。

後から来た男性が私の斜め向かい側に座り、右手に持ったドリンクが免罪符だと言わんばかりに、ずっとマスクをあごまで下げていたので、私は早々に立ち上がった。

雨の予報が出ていたが、私が乗った飛行機は青空に向けて飛び立った。

少しすると、寒気がしてきた。ブランケットを頼む客がいたが、新型コロナウイルスの影響で中止されていた。

それだけでなく、温かい飲み物を選択できるドリンクサービス全般も、機内の音楽を聴くためのイヤホンサービスも中止されていた。

機内誌は希望者のみ配布されていたが、気流の関係で客室乗務員が着席してしまい、もらい損ねてしまった。

寒さでガクガク震え、気分をまぎらわせるための音楽や読み物もなく、外は雲しか見えない中、田舎の空港に着陸した。

はしゃぐ観光客は皆無だった。

市街地までのバスに乗る客は少なく、ほとんどは家族が車で迎えにきていたが、皆、無口だった。

それぞれの迎えにきた家族が、飛行機から降りた家族をそそくさと車に乗せ、早々に飛行場を後にした。

その姿は、芸能リポーターから逃げる芸能人と事務所関係者に似ていたかもしれない。

実家に着くと、着ている物をすぐに洗濯機に入れ、シャワーを浴びた。

シャワーを出て、新しい服に着替えて、マスクも着用した。

母が、
「お姉ちゃんは、今週末遊びに来るって。」
と言った。

私たちはごく一部の親族にだけ知らせ、地元の友人にさえ帰省を知らせていなかった。

「これから1~2週間は、自主隔離生活だね。」

レースのカーテンのすき間から、外をうかがった。

(2020年7月上旬、都内某所から感染者が少ない田舎町までの記録)

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椎良麻喜|物書き(グルテンフリー/小説/エッセイ/写真)
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