ケンタッキーのスノーマンとジンジャーエール
まだスマホもなく、ケータイもパソコンも一般には普及していない時代、東京から遠い田舎で生まれ育った私にとって、【東京】も【テレビの中】も【どこか違う国】くらいの感覚だった。
だから、もちろんテレビのCMも、私にとっては別の国くらいの感覚だったのだけど、
長くて綺麗な髪を持つ女性が出てくるシャンプーのCMに出てくるシャンプーが 家にあり、自分の髪にツヤを与えていることも、
都会的で洗練されたCMに出てくるコカ・コーラをゴクゴク飲めることも、
イシイのミートボールが自分のお弁当箱に入っているのも、
すべて不思議な感覚であり、自分が少し誇らしくなって、それを持っていることを友人に自慢にしたし、イシイのミートボールが入ったお弁当箱はみんなが取り囲んで見るくらい、子どもたちの認知度も人気も高かった。
しかし、ちょっとお金を出せば買える【別の国の商品】より難易度が上がる物があった。
それは、ファストフードのノベルティグッズだった。
特に、ケンタッキーフライドチキンのCMは、クリスマスが近づくと、欧米人のサンタクロースと子どもたちが出てきて、CGでファンタジーに演出されていたため、より一層別の世界に見え、そこでキラキラ輝くスノーマンのグラスは特別な宝物に見えた。
ファストフードの食べ物をあまり買ってくれない母を説得し、ケンタッキーフライドチキンを母と一緒に買いに行った。
家で箱からスノーマンのグラスを出して、家の電気にあててしばらく眺めていた。
今、私の手元にあるグラスは、東京と私の住む田舎、別の国と私の家、架空の世界と現実の世界を結ぶ、特別な物のように感じた。
そこに、ジンジャーエールを注ぐと、さらに特別感が増した。
ジンジャーエールは、当時、私の住む近所のスーパーには売られていなくて、CMもおそらく流れていなかったため、その存在すら私は知らなかった。
年に数回しか行かない焼肉屋で、初めてその存在を知り飲んだときは衝撃を受けた。
炭酸のシュワシュワとピリピリ感が美味しく、少し大人な飲み物に感じた。
ずっと大人になってから、ジンジャーがショウガだと知り、時間差でかなり驚いた。
大人な味に感じたのも、あながち間違っていなかったのだ。
というのも、私は長らくショウガが食べられなく、嫌いな食べ物の一つにショウガを上げていたくらいだ。それなのに、子ども頃の【特別な日】に出てきた【特別な食べ物】と【特別なグラス】に【ジンジャーエール=ショウガジュース】を入れて飲んでいたなんて。
久々に、実家にあるスノーマンのグラスを引っ張り出して、それにジンジャーエールを注ぎ、東京へのキラキラした憧れがあった頃や特別な日のことを思い出したのでした。
(注)一部脚色しています。
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