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①オートクチュールな彼女はチーププレタポルテな自分に興味津々
実体験に基づいたフィクションです。
偏差値が高めな女子大で、別名“お嬢様大学”とも呼ばれているが、国立大学なので学費が安く、そのため一般家庭や私のような貧しい家庭の学生も何割か在籍する大学があった。
彼女と最初に出会ったのは、履修登録説明会のときだった。私の彼女に対する第一印象は、
(皇族か⁉)
だった。なんという名前の生地かは分からないが、明らかに高級な生地に、一着一着オーダーメイドなんだろうなって分かるくらい彼女の体にジャストフィットする服を着ていた(かと言ってエロいわけではない)。
互いに物珍しかったのか、彼女と私はよく話をするようになった。
何の話の流れなのか、あるとき彼女に“カツアゲ”について話をしていた。
「カツ揚げ?何だか美味しそうな名前ね。フフフ。」
と彼女は返事をした。
私はかくかくしかじかであると説明をした。すると、彼女は、
「語源は?語源は何なのよ?」
と意外な反応を示した。
地元の公立中学や高校に通った自分には、日常的な会話に出てくる当たり前すぎる単語だったため、語源なんて考えたこそすらなかった。
それから、二人でインターネットや図書館の辞典で調べて語源や漢字を知り、逆に自分が驚かされることもあった。
『アンパン』『パクられる』『根性焼き』『タイマン』『ステゴロ』……
私が思いつくかぎりの“不良用語”を出し、二人で語源や漢字を調べる日が続いた。
私は不良というわけではなかったので、地元の友人のツテを使って、不良用語をさらに集めていった。
そのうち、一部の地域でしか使われないような、方言のような不良用語もあると気づき、SNSも使い始め、広く不良用語をつのった。
私は彼女にこわれ、学内で“うんこ座り”を教授したことさえあった。
すると、一部の学生から、
「彼女に変な言葉を教えるのは控えていただきたい。」
「彼女がどんどん汚されていく。」
「彼女に近づかないでいただきたい。」
「付き合う相手を選んだらどうかしら?」
という声が挙がった。
私は悲しくなり、彼女から距離をおこうかと思った。すると、彼女は、
「私の親友なんだから!」
と毅然とした態度で言い返してくれた。
あるとき、彼女の愛車で郊外をドライブした。運転席にいた彼女は、畑の近くを歩く男性を見て、
「珍しいヘアスタイルね。」
と言った。
私は、
「ああ、あれは、勘違いした不良。イキがって失敗しちゃったんだね。」
と助手席から答えた。
「あっ、あれは?」
と彼女は、今度は反対側の歩道を歩く女性について聞いた。
「頑張っておしゃれのため茶髪にしている人。あれは不良じゃないよ。」
と私は答えた。
「あの二人組の女子高生は?」
「クラスカースト上位ってとこ。マイルドヤンキーだね。」
「あの男性は?」
「昔、ヤンチャしていたタイプ。今は仕事もバリバリやる良いお父さんってところ。」
「凄い!何で不良か非不良か瞬時に見分けられるの?」
と、彼女は目を輝かせてきた。
「いや、何でって、一目瞭然だし。」
と私は答えた。
それからしばらくは、彼女とドライブする度に、不良かどうかを見分ける方法を話し合ったりした。
その後彼女は、卒論のテーマを『不良及びヤンキーにおける語源やファッションの変遷』としてまとめ、大学院にも進学した。
相変わらず皇族みたいなオートクチュールをさらっと着こなす彼女は、その外見と研究のギャップが受けて、ヤンキー学の第一人者としてテレビ出演することがあった。
「ヤンキーに興味を持たれたきっかけは?」
そう司会者のタレントに聞かれた彼女は、
「親友との会話です。」
と答えた。
「とんでもない親友ですね!」
と司会者が言うと、スタジオはどっと受けた。
「私の世界を広げてくれた親友に感謝です。」
と彼女は、学生のときと同じように毅然とした態度で言った。
*
2話以降は下記のマガジンからご覧になれます。
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