【小説】あと80日で新型コロナウイルスは終わります。
~マスクブラケット~
N95マスク以外の通常のマスクの品薄は改善されたが、またいつ通常のマスクの品薄があるかもしれないと危惧して⚫⚫クリニックでは、医師や初期の中絶で使うマスク以外は、いまだに最低3日使うように言われていた。
何度も使うのがイヤな人は、自腹で市販のマスクを購入したり、手作りマスクをしていた。
医療従事者だからと言って、コロナ禍以前のようにマスクが無料で使い放題なわけではなかった。
*
「⚫⚫さんの様子がおかしいんだけど。」
清掃スタッフの一人が、アキナたち看護師に慌てた様子で話しかけてきた。
見ると、別の清掃スタッフがフラフラしていた。
意識朦朧としている⚫⚫さんのカルテを出してきて、今診てる一般の患者さんの次に、医師に⚫⚫さんを診てもらった。
みんなが想像していた通り、『熱中症』だった。
院内はクーラーで冷房を効かせているとはいえ、動くと体感温度は上がった。しかも、今年の夏は連日40℃近くある中、外のゴミ置き場を行ったり来たりしている清掃スタッフは逐一マスクを外していなかった。
*
「忙しいとマスクの着脱は面倒だし、かと言って、マスク無しで院内にいてもらうわけにはいかないし。冷感マスクは当たりはずれがあるし。」
昼休憩中アキナがつぶやくと、受付スタッフがスマホの画面を見せてきた。
「マスクブラケットっていうものがあるんだって。」
「何それ⁉ ちょっと待って!わたしのスマホでも検索する!」
『マスクブラケット』のほか『インナーマスク』『マスクフレーム』といった名前で同様とおぼしき商品が出てくる。マスクと口の間に空間ができ、呼吸がしやすくなるのだという。洗って何度でも使える。だいたい送料込みで5個1000円弱といったところ。
「情報ありがとう。事務長に掛け合ってみる。」
アキナは、事務長の許可が下りなかったら、5個1000円のものを自腹購入して、使い勝手が良かったら清掃スタッフにもお裾分けしようと思った。
コロナ禍で医療従事者の給料が下がっていると言われているが、それだけでなく自腹購入も増えていた。
新型コロナウイルスが終わるまで、
あと80日。
これは、フィクションです。
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