【小説】忘れたって言われたら怒るでしょ、普通

「もしもし? 今どこにいるの?」

『……』

「うん。まあ、怒ってるけど……」

『……』

「だって、結婚記念日だよ? 忘れてたって言われたら怒るでしょ、普通」

『……』

「で、今どこ? 急に出掛けたまま帰ってこないから、電話したんだけど?」

『……』

「え? お詫びに、一年目の結婚記念日に食べたケーキ買おう思ったって……その店は何十年も前に郊外の方に移転してるはず」

『……!』

「道理で店が見当たらないはずって……呑気か!」

『……』

「……もう怒る気も失せました。だから、早く帰ってきなよ」

『……』

「は? 代わりに花束を買ったら、お金が無くなって電車代が無くなった!? もう、何やってるの……」

『……!』

「あー、もう! 分かった、分かったから」

『……』

「はいはい。今から車で迎えに行くから、駅の西口で待ってて」

 電話を切って隣に座っている息子を見ると、にやにや笑っている。

「……ちょっと迎えに行ってくる」

「うん」

「まったく。お詫びにケーキとか花束って、どんな発想? しかも、そのせいでお金無くなって帰れないって……」

「なんかさあ、記念日忘れるとか花買うとか、普通と逆だよね。じゃあ、行ってらっしゃい。お父さん・・・・


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