野良のライオンを飼育する方法#4 コピ・ルアク
小走りであの猫がいた場所に戻っていこうとしたが、コーヒーがこぼれる。
いくら寒空の下とはいえ、淹れたてのコーヒーが皮膚に溢れるとそれは不快だった。
それに走ってコーヒーを届けたらまるでパシリのようで、なんだかみっともない気がしてきた。
今自分が冷静にしていることを見ると、なんだかものすごく奇妙だ。
バイトをクビになって、猫に話しかけられて…しかもその猫は人の心が読めるらしい。
それに猫のくせにコーヒーを飲むらしい!
どう考えてもおかしい。これはきっと…
「夢だ。」
「何をしておるのだ。」
「わ、びっくりした。」
「通り過ぎておるぞ。」
「あぁ、はい、コーヒー。私がご馳走する。」
少しだけ溢れたコーヒーがコップのフチを濡らしていた。
カップの隙間からは湯気が出ている。
「それはどうも。生憎、私はコーヒーが飲めない。君が飲みなさい。」
「はー???!コーヒー飲みたかったんじゃないの!?」
「まぁ、飲めば良い。私は何もいらない。」
そういうと前足で目の当たりを少し擦った。
「わかった。まぁ、飲むわよ。大体、猫がコーヒーなんておかしい組み合わせだったし。」
ぶつぶつ言いながら蓋を開けて、砂糖とクリームを一袋ずつ手で千切る。
それぞれ中身も最後まで入れて、マドラーを忘れたことに気づいて、クリームが入っていた袋でくるくると掻き回し、蓋をする。
「ジャコウネコの糞から取れるコピ・ルアクというコーヒーは世界で最も高価なコーヒーだそうだ。」
「え、糞?きもっ」
「そのコーヒーはうまいか?」
「んー、私コーヒーとかあんま飲まないし、わかんないな」
「そうか。」
「うん。」
「バイトをクビになったところで、君の価値は下がらない。」
思わずコーヒーを飲む手が止まる。
「…でも私、すぐバイトクビになるんだよね。価値ないんだよ。」
「それは、ただやり方を知らないだけだ。」