彼はあまり表情が顔に出ない人だった。無愛想で淡々としていて、いつも仏頂面でどこか近寄りがたい雰囲気があった。基本的に物事に動じず、またその態度は愛想の欠片もないため冷血漢と評価されがちだった。
しかし彼は人形でもロボットでもない。
ぱっと見だとわかりづらいが、ツラいこと、傷ついたこと、悲しいことがあれば唇をぐっと引き結びこらえていたり、逆に嬉しいことがあれば口元をほころばせ穏やかな顔をしていた。
そんな彼が一際良い表情をする時がある。
それは笑った時。ふわりととても穏やかに彼は微笑むのだ。
「もっと笑えばいいのに。笑った顔、すごく良いと思うわ」
「そうかな? 別に特別良くもなんともないと思うけど。それに笑えって言われて笑えるものでもないし」
ある時、そんな笑みを見せた彼にそう指摘してみた。すると彼は折角の笑顔を引っ込め、いつも以上の仏頂面を浮かべてそう言った。
「あなたがそう思わなくても私は良いと思うんだけど。もっと何ていうのかしら?、自然体でいいと思うのよ」
「僕はいつだって自然体のつもりだけど」
無愛想な表情を崩さずに彼はそう返す。口調も平坦で淡々としたものだ。
けれどそれは普段よりも過剰で、固いともいえる印象を受ける。
「照れてる?」
私は彼の顔を覗き込む。
「別に照れてはいないけど……」
彼はそう答えたが、図星だったのか私から顔を背けると、しばらくの間そっぽを向いたままこちらへ向き直らなかった。
END.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?