A子、B夫C美
C美から荷物が届いた。クール便だった。
なんの連絡もなかったこの2ヶ月、平和だったなぁと、主人公はしみじみ振り返った。
そろそろいいだろうと頃合いを見計らったつもりなのだろうが、甘い。
あなたの孫はかたくななのだ、とモノローグをつぶやきながら主人公はダンボールを開ける。
ひとりじゃ到底食べ切れそうにない量の漬け物、毎回入ってるけど甘すぎてすきになれない佃煮......必要な人に届けばこれもお宝なのだろうに。
確認もそこそこに中身を冷蔵庫に放り込んでいく。
しばらくしたら今度はゴミ袋に突っ込まれるんだ、こいつらは。
もはや何に対して抱いているのかわからなくなった罪悪感、みたいなものが、鈍くひかるアルミホイルの銀色をして主人公を覆っていく。
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スマホが震える。C美からの着信だ。
しばらく画面を見つめたあと、主人公は「拒否」をタップしていた。
こんなことは初めてだった。
C美は、荷物が無事に届いたか確認したかったのだ。
いや違う。
そもそもは主人公の声を聞くために荷物を送っているのだ。
もっと言えば、やさしい孫にときどき電話でぐちを聞いてもらったりできる、しあわせなおばあちゃんにC美はなりたいのだ。
うるさいな。
ただそれだけの気持ちで、主人公はC美のしあわせを壊すことができる。
主人公は、やっと落ち着いたいまを乱したくなかった。
主人公は、自分だけの平穏を守りたかった。
主人公は、だれの愚痴も嫌味ももう聞きたくなかった。
どうして。どうして今さら。
どうしてみんなA子のこと悪く言うの。どうしてわざわざ私に言ってくるの。聞きたくない聞きたくない聞きたくない、そんなことはもうわかってる、じゅうぶん知ってる、だって、私だってずっと苦しかったんだから。それでもほったらかしだったじゃないか。もう仲介はしないよ。もうできないから。私は緩衝材じゃない。都合よく使わないで。引き戻そうとしないで。こないで。いらないいらないいらないいらない。責め合うだけの家族なら、解散したほうがマシだって思わない?
なんで、なんでこんなになってまで続けようとするのかわからない。
私は私を治すために、距離をおいたんだ。
だれかたすけて、たすけてあげて。
このひとたちをどうにかしてあげて。
主人公は、この家族から降りたかった。
逃げても逃げても追いかけてくる、この家族。
人生から降りない限り、ずっとつきまとうのかな。
どうしたらいいの。
主人公はPCを開き、電源を入れた。