小楠アキコさんと私のドラマ
明日から2日間「八王子で一番小さな展覧会 − 手のひらサイズの小さな作品展 vol.1」が開催される。会場は space &。小さな展覧会に相応しい(だろう、と私は思っている)小さなスペースだ。
主催の小楠アキコさんは、とてもアクティブでパワフルな人である。それは、出会った頃から変わらない。出会った頃というのは、もうずいぶんと前のことで、およそ13年前になる(はず)。
当時、私は多摩の画廊に勤めていた。恐れ多くも店長などという肩書きで。ある日「地元作家展に力を入れていこう」という会社の意向のもと、第一弾作家として紹介されたのが小楠アキコさんだった。目が覚めるような鮮やかな色彩、一目見たら虜になってしまう「ハッピー太陽」なるもの、そして何より彼女の人柄。会期中は、店舗の既存客以外にも、彼女を応援するファンが続々とやってきた。分かる。小楠さんを好きになる気持ちがとてもよく分かる、と思った。小楠さんは在廊中、ずっとイーゼルに向き合っていた。真っ白なキャンバスを色鮮やかに染めていく迷いのない筆。なんだかとんでもない人と出会ってしまったな。そう感じた当時の私はちっとも、何一つ間違っていなかったと、今も常々思っている。
勤め先を退職したのは、そんな強烈な出会いから2年程経った頃だった。私の故郷は福島県いわき市。東日本大震災によって傷ついた故郷のために何かをしたいと思った私は「毎月、月の半分もしくは10日程の連休を取らせてくれるような職場」を探し始めた。そんな都合のいい職場なんてそうそうないよな、と思いながら、探した。ところが、ご縁というのは不思議なもので、そんな都合のいい職場がすぐに見つかったのである(声をかけてくれた千葉店長には未だに感謝の気持ちを抱いている)。連休の間、私は故郷に帰り、同級生たちを集めてまち興しを呼びかけたり、様々なプロジェクトや講演会に参加したり、とにかくいつも何かをしていた。そんな中、市内の小さな町の古民家活用プロジェクトに参加することになった。企画が求められた。私は、子どもたちの夏休みに合わせて、ギャラリー展を企画した。子ども向けのお絵かきワークショップも同時開催。作家はもちろん、小楠アキコさんだ。八王子からいわきへ、遠路はるばる来てもらえるだろうか?という不安を抱く間もなく、小楠さんの返事は「行きます」だった。本当に嬉しかった。地方というのは往々にして、よそ者を訝しむ傾向があるが、そんな心配はいらなかった。彼女の人柄と、作品から溢れ出るエネルギーがそうさせた。ギャラリー展とワークショップは、見事に大盛況だった。
その後も小楠さんとの交流は続いた。ある時、彼女の個展に足を運んだ際に(ギャラリーロックーニだったと記憶している)こんなことを言われた。
「賀澤さん、起業したり、自分でプロデュースとかやったらどうですか?絶対に出来ますよ」
いやいやそんな、とんでもない!私なんかに出来るはずがない。そう思ったし、そのようなことをその場で言ったりもした。当時は独立するだなんて、微塵も考えていなかったからだ。けれどもそれから数年の後、私は起業して、拠点まで構えた。様々な要因や、環境や、タイミングなどが綺麗に重なって、結果としてそうなったのだと思ってはいるものの、最終的に決断をしたのは私だ。「賀澤さん、起業したり、自分でプロデュースとかやったらどうですか?絶対に出来ますよ」。そう言った小楠さんの真っ直ぐな瞳が、時を経て背中を押してくれたのだと思う。
レンタルスペースとして稼働を始めた space &を、いつかギャラリーとしても活用したいと当初から考えていた。その願いを叶えてくれたのもまた、小楠さんだった。「賀澤さんのところで絵の展示がしたいです」。彼女はまるで、私の心を見抜いているかのようにそう言ってくれた。ずっとあたためていた企画「& ART PROJECT(アンドアートプロジェクト)」をスタートさせるときが来たのだと思った。記念すべき第一回目のギャラリー展、小楠さんが付けたタイトルは「幻のハッピー太陽展 ~2人の出会いの原点 当時生まれた作品を中心に~」。「2人」というのは言うまでもなく、小楠さんと私を指している。
※八王子経済新聞に取材してもらった当時の記事はこちら。是非ご覧頂きたい。
募る想いをしたためていたら日付が変わってしまった(現在、0時38分)。本日、7月8日12時から「八王子で一番小さな展覧会 − 手のひらサイズの小さな作品展 vol.1」が始まる。総勢10名の作家が集う見どころ満載の作品展。嬉しいのは「vol.1」というところ。「ここから始まって続いていく」という印みたいに見える。それは決して私の主観、思い込みではなく、本当に「続いていく」のだ。詳細は、第一回目と同様に取材をしてくれた八王子経済新聞の記事をご覧頂ければ分かると思う。
「& ART PROJECT(アンドアートプロジェクト)」は、ドラマが見えるギャラリー展を目指している。けれど、目指す必要などないのかもしれない。そこには意図せずとも、必ずドラマがあるのだから。小楠さんと私のように。
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