雨の日のテーマパーク
また雨の季節がきた。
前までは少し憂鬱な気分になってたこの季節も、今は特別なチケットのおかげで楽しく過ごせる日が増えた。
そのチケットがすぐ身近にあることに気づいたのは、今年の梅雨だった。
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またうまくいかなかった。
職場のお手洗いの鏡に映る自分を見て、がっかりする。
「こうなることはわかってたけど」心のなかでつぶやきながら、滴を振り払った傘をもってデスクについた。
この日は朝からコテ(巻き髪を作るヘアアイロン)で髪の毛を巻いてきた。
超ストレートな猫っ毛である私の髪の毛は、パーマなどで巻かれることを一切受け入れてくれない。
でも先日髪を切ったとき、コテの簡単な使い方を教えてくれながら美容師さんがセットしてくれた私の髪の毛は、
帰宅してもまだクルンとカールが残っていた。
これはいけるかもしれない......!
長年解決しなかった髪の毛の悩みが、いよいよ解決できる。
そう期待が高まっていた。
私にとっては良いお値段だったコテと、巻き髪用のスタイリング剤を買った。
Youtubeで巻くコツを解説してる動画をいくつも見て、メモを取った。
「頼んだぞ」
私は期待を込めて巻きはじめた。
が、結果は敗北。
家を出る直前に巻いた髪の毛は、1時間もかからない通勤時間の間にまっすぐなストレートに戻っていた。
やはり猫っ毛は、雨や湿気に弱いのだ。
もともと雨は嫌いではないけれど、連日悪天候が続くとさすがに辟易する。
洗濯物は室内干しになり、裾が長い服を着れば汚れてしまう。
足が濡れるから天気予報で傘マークがちらつけば長靴一択。
恵みの雨に対して申し訳ないが、梅雨ってやっぱり、ちょっと不便。
理由は様々だろうけど、こう思ってる人はきっとたくさんいると思う。
私にとって、そして育児をしてる人にとって一番不便なのは、子どもが外で遊べないことだ。
実際、この時期の子育て情報サイトは、お家での過ごし方の記事が並び、
どうやって過ごせば良いかアイディアを探している私のような読者の期待に応えてくれている。
4歳の娘は公園が大好きで、平日は保育園の園庭で散々遊んでるだろうに、週末は公園に行きたがる。
が、あいにく今は梅雨だ。
お家遊びで費やせる時間には限度があるし、お外で遊びたいとせがまれるかもしれない。
週末のたびに雨が降ると「何をして1日を過ごそうかな……」と少し憂鬱になる。
スマホで1週間の天気予報をチェックした月曜の朝。
ズラッと並んだ傘マークに思わずため息が出る。
「きょうはあついひ?それともさむいひ?」
私が天気予報を調べてると気づいた娘が聞いてきた。
「うーん、暑いっちゃ暑いけど雨だからひんやりしそうだね。それよりも湿気がすごい」
「しっけ?」
「そう。空気の中のお水がいっぱいで、ジメジメするんだよ」
そうなんだ、と返事をして保育園に着ていく服を選び始めた。
私は何を着よう。
何を、と考えた所で、雨なので選択肢が限られる。
まあ、今日はラフな格好で、長靴に合えばいいか。
娘が着替える様子を見ながら、私も身支度を始めた。
今日はゴミの日だ。
傘と自分のバッグ、それからゴミ袋を持って外に出ると、すでに雨が降り始めていた。
大きなビニール袋を収集ボックスに投げ込むとき腕に少し水滴がかかる。
こういう雨の日あるあるのちょっと瞬間が少し嫌だ。
「よし、行くぞー」と傘を開いた娘に声をかけ、一緒にマンションを出ていく。
娘がもってる傘は、私の母が買ってくれたもので、彼女のお気に入りだ。
黄色、青、ピンク......何色のお花が描かれているか、一緒に色を当てっこしながら保育園の帰り道を歩いたことがある。
ビュっと風が吹く。
傘の内側に風が吹き込み、一瞬娘の身体が後ろに押される。
「キャー!」
めちゃめちゃ笑顔だ。
「かぜつよいねー!」楽しんでるな、これは。
昨晩から降り続いてる雨は、歩道のところどころに水たまりを作っていた。
娘には、周りに人がいなければ、長靴を履いてる日はその中に突入していいことにしている。
ミニオン の長靴は、あえて水面を大きく乱すようにバシャバシャと進む。
なんかわかる。
水たまりの中を歩くのってなんだか楽しい。
「あ、くものす!」
近所の植木に蜘蛛の巣が張っていた。雨で濡れてキラキラしてる。
かと思ったら、「あっちのほうがおおきいみずたまり!」と言いながら駆けていく。
朝から忙しないな。
でも、ゆっくり歩いてたら通勤時間が遅れるから、先を進んでくれるのは助かる。
そうしてる間も風は強く吹き、娘は傘の柄を両手でギュッと握っていた。
まだ幼い手はむちむちしていて、私はこの手がたまらなく可愛いなと思う。
途中で紫陽花の白い花を見た時には
「ばあばのおうちのあじさいは、あおだったよねー」と話題を提供してくれた。
娘から見た雨の日は、不便でも憂鬱なものでもなく、ワクワクするものでいっぱいだ。
それはまるでテーマパークのよう。
ゲストは娘。キャストは雨や風、みずたまりや蜘蛛の巣。
手にはチュロスの代わりに傘を持って。
ありがとう。お母さんも雨の日が楽しくなってきたよ。
そういえば、こんな天気の日は巻き髪が取れることがわかったから、
昨夜調べたヘアゴムだけでできるアレンジを、今朝試してみた。
雨のおかげでいつもと違う髪型にチャレンジできたということなのかも。
そうか。
私に天気を変える力はないけど、見方を変えてることはできる。
傘やレインコートを着た子どもを写真に収めてみたり、いろんな色の紫陽花を探してみたり。
育児中にしかできない、雨の日のワクワクを子どもに教えてもらった。
今日から私も、ヘアゴムでまとめた髪型で雨の日のテーマパークを楽しもう。
入場チケットは、「見方を変えること」たった一つだ。
憂鬱になりがちなこの季節は、誰でもゲストになることができる。
そしてきっと、それぞれの親子をたくさんのキャストが出迎えてくれる。
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