見出し画像

『往復書簡』(仮)32復信

Sさんへ

こんにちは。
所詮、僕らはまだ消費税しか払っていない子どもだ。親に養われなければ立ち行かない存在だ。いずれは自立を求められ否応なく経済活動に巻き込まれるだろう。そして、過去の自分を笑って済ましているかもしれない。そう考えると僕は絶望的な気分になる。
でもSさんはきちんと受け入れて、その中で自分のできる範囲で、自分をしっかり生きようとしている。僕はもっと、Sさんに学ぶべきかもしれない。
人間にとって幸福とは何かについて、あらためて考え始めている。今の時代、どの国に生まれたか、どんな家庭に生まれたかで、人生の多くの要素が決まってしまう。時代によっては、差別がもっとあからさまだった頃もあるし、今は克服されつつある病気で命が簡単に奪われた。
老いについても昔とは違う問題が起きている。個人的なことでも、経済的な変化や近親者との死別、僕には縁がないけれど失恋なども、人生に多大な影響を与えることがある。
そういう経験から何を受け取りどう解釈しどういう選択をするかで、それ以降の人生はいい方にも悪い方にも流れていく。結局は自分次第である訳だけど、天は自ら助く者を助くんだろうね。
誰かに幸せであるよう支えてもらうことももちろんあるけれど、それは相手の問題であって、自分の様々な意味での努力、現状に耐えながら自分の望む方へ進むための具体的な、しかも適切な行動が取れている時、その人間は明らかに幸福と呼べると思う。自分は求めるばかりで、幸せにしてもらおうとするのは、結局虚しいことになると僕は思うよ。
Sさんの手紙を読んでいて思ったことは、君は本当に幸せだということと、母親との関係性を少し見直した方がいいってね。家族とはいっても、別々の人格であって、今、Sさんのお母さんは自分のことしか意識できていない。Sさんは優しい人間なのはよくわかっているけれど、今、その優しさはお母さんにとってもいいとは思わない。こんな言い方をしていいのかわからないけれど、僕からしたら時間の浪費だよ。
Sさんのお母さんはSさんから見て、どんな人なんだろうか。それにもよるとは思う。ちょっと言い過ぎの部分もあるけれど、このまま送るよ。
ではまた。


#小説 #書簡小説 #手紙 #手紙小説 #往復書簡 #往復書簡小説 #掌の小説 #短編 #短編小説 #コミュニケーション #コミュ障 #文通 #理想の文通 #リアリティなんていらない  

いいなと思ったら応援しよう!