『往復書簡』(仮)12復信
Sさんへ
毎日暑いけれど、夜にはもう虫の音が聞こえてくる。うるさいくらいだ。
Sさんのいう通り、元来の意味の神を僕は必要としていないだろうね。信仰を持っている人たちに対しては尊重するけれど、宗教団体に所属していることと、本来の信仰心は別物だと思っている。あらゆる組織は自己保身を内包しているものだと思っているから。
僕はね、定冠詞のつく神については保留するとしても、日本語の一般的に使われる神という言葉について、再定義したらいいと思っているんだ。未知なものの総体を神としてみたらどうだろうってね。
この場合、科学は神を駆逐するものになるのかもしれないけれど。でも人類が未だに知らないことやものは、宇宙の果ての向こう側はもちろん、宇宙内部にもある。
地球でいえば未開の地、深海や未確認の洞窟。物理空間ではなくても、未だに新種の生物が発見されればニュースになるし、人体のことや、わかりやすい例を挙げれば、病気の原因がわかった事なんていうのはトップニュースになる。世界はわからない事だらけさ。まさに神は遍在するって事だね。
そうだ、僕が楽しいかどうか知りたいみたいだから書くけれど、楽しいのとはちょっと違うとは思う。ほんの少しでも、そうか! ってなった時の充足感は何者にも替えがたいんだ。他人から見たら、ただの自己満足に過ぎないだろうと思いつつ、今の僕はそんな風に生きさせてもらっている。
現在の留保された安全地帯にいるうちに、冒険しているだけかもしれない。
T
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