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『往復書簡』(仮)34復信

Sさんへ 

こんにちは。
抽象画を描く人だとは思っていなかったから驚いたよ。どんな感じの絵なのかとても興味がある。写真でも撮って送って欲しいくらいだ。ついでに滝の絵も見てみたい。無理にとは言わないけれど。気が向いたらでいい。
Sさんのお母さんについて、とやかく言うつもりはないよ。この間の手紙は、やはりちょっと言い過ぎたようだ。申し訳ない。
と言いつつ、一言だけ。Sさんのお母さんという人は、自分がいかに幸せかを演じているタイプの人かもしれないね。それを支える経済力が弱まったことで、不安になっている気がする。しかも現実問題として資金繰りに困窮していることで、冷静さを失って余裕がなくなってしまっているんだろうね。
大学の志望を国立にしたことは、もう話したんですか? もしまだ話していないのなら、話してみたらどうだろう。それでSさんのお母さんも、少し冷静さを取り戻すかもしれないし。大丈夫、きっとなんとかなるよ。Sさんならできると思う。
お父さんとはあまり仲良くないかもしれないけれど、最後、どうにもならない、自分の手に負えないとなった時は、お母さんのことを話すべきだとは思うけれど。なかなかそうはいかないか。
うちの家族は自由主義というか、放任主義でね。父親は月に1日、2日しかいない。僕にとって父親の存在はないに等しい。死んだわけではないから、失っているという風には言えないが。不在と喪失は全く違うからね。
母も兄も僕も本の虫なのは、このことと関係あるのかもしれないと感じることはある。日常に空いた穴をフィクションで埋めている。特に母にとってはそんな気がしている。一見平穏な家族であっても、見せないだけでいろいろあるのが当たり前なのかもしれない。
Sさんと僕と家庭環境は異なるけれど、絵に描いたような家庭なんて、この世に存在していると僕は思わない。
Sさんが書きたければ、グチを書いてもらっても僕は構わない。書きたくなければ書かなければいい。簡単なことだよ。
ではまた。


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