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『往復書簡』(仮)22復信

Sさんへ

こんにちは。
Sさんの話で、やはりそうなんだと思いました。僕はその経験はないけれど、昔からSさんと同じ経験をした人はいたようです。赤い色で感じる人が多いようです。視覚だけではないけれど、自分が感じているものと他人が感じているものが同じだと実証することは不可能です。
匂いも音も味も同じ。あらゆる生命の個体差は絶対で、生物の授業で細胞説を学んだ時にはっきりわかったことがある。それは人間だけしか認識していないことかも知れないけれど、孤独についてです。
生命は細胞膜によって外界と自己とを完全に区別している。ということは、孤独であるということは、全生命の、そして人間の属性なのだと。ならば、人が孤独に悩むというのは、ある意味で滑稽とも言える。
ただ、よく言われるその悩みは、厳密には社会とのつながりや他者とのつながりの欠如によって感じる生きづらさをそう言っているだけだという気がする。
正確な意味での孤独、それ自体を嘆くというならわかるけれど、悩んだところで何も変わりはしない。ひとりぼっちじゃない状態になれば、その事実を忘れてしまうだけで。
生命は自と他を明確に分離している。それが僕の細胞説の解釈だ。 

一応、説明しておくと、手紙の返事が今日になってしまったのは、父親の病気がわかったからです。それでいろいろ時間を取られた。
詳しい話をする気はないけれど、とりあえず現在は経過観察中です。
心配しないで下さい。


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