50音くじ引き小説
夕闇せまる刻(とき)に聞こえた声
「虹のかけら落としちゃったんだけど見てない?」
振り返ると見かけたことのない男の子
カラスの鳴き声が妙に響く
「手に持ってたの?どこに落としたの?」
背丈の小さな男の子が近づいてきて
すっと手を出す
「残りあとひとつが見つからないの。一緒に探してくれない?」
見上げてくる瞳が虹みたいにキレイで私は不思議な感覚に飲み込まれそうになりつつ辺りを一緒に探した
「ねぇ何してるの?」
その声はいつもの同級生
無邪気な笑顔にほっとしつつ事情を説明していると
山の木々が激しく揺れだし異様な空気が辺りを包みこむ
「あれ?」
ろうそくの灯りのような光が見えた
よくよく目を凝らして見ると、そこには虹色のビー玉
「うわぁ!キレイ」
ついつい同級生と見入っていた時ふとあの男の子が居なくなっていることに気付いた
「他のところに探しにいっちゃったのかな?」
「なんだーせっかく探しものを見つけたのに」という同級生と共に辺りを見渡してみた
周りを一通り探してみたけどあの男の子はいない
「お家に帰っちゃったのかなー?」
変な所に置いておいたらまたなくなってしまうかもしれないと思いつつ男の子に声をかけられた森の入り口に見つけたビー玉を置いておくことにした
得体のしれない異様な空気を放つ森に近付くのは少し怖かった
ルーズリーフに記したメモ書きと共にビー玉を森の入り口に置いたとき
目の前が急に明るくなり眼下には見たことのない景色が広がっていた
「は?なにここ?どういうこと?」
列を成して歩く姿が遠くに見えるがどう見ても人間ではない
猪も二足歩行で服を着て歩いている
ちょっとずつ状況を理解してはきたけど追いつかない頭と固まる同級生
「これって帰れるのかな?元の世界に…」
爽やかな風が吹きさっきまでの異様な空気はなくなっていた
草いきれの中からさっきの男の子がピョコンと出てくると私達の方へ走ってきた
「わぁ!見つけてくれたの?」
「ケン君の宝物なんだー!」
ランランと輝く虹みたいにキレイな目
「大事なもの見つかって良かったね」
もう異様な状況も忘れて私も同級生もビー玉を渡せたことに安堵していたその時
静かに雨が降ってきた
突然鳴り響く雷鳴
キュッと目を閉じそっと目を開けるとそこは元いた森の入り口だった
濡れたはずの体も元通りになっていた
ビックリして同級生と顔を見合わせていると遠くから男の子の声でありがとうと聞こえてきた
理由はわからないけれど違う世界で困っていた男の子を助けたあの夏のことを私も同級生も一生忘れないだろう
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