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私たちがゆで卵を食べる理由

「ここの人たち、やたらゆで卵食べません?」
バイト先に出勤して、とりあえずご飯を食べようとコンビニで買ったゆで卵の殻をむき始めた私に、つい先日、新しくバイト先に入った女の子が言った。言われてみればたしかに、バイト先の同僚のキッズたちも私も、ゆで卵をやたら食べている。

私のバイト先は1回のシフトの拘束時間が9時間なので、朝ごはんと昼ごはん、もしくは昼ごはんと晩ごはん、多い時で2食をバイト先で食べる。家から簡単なおにぎりとか、スープを持っていくこともあるし、うちのバイト先では諸事情によりお昼にまかないが出ることもあるものの、それ以外の場合、大体はコンビニに頼る。

バイトを始めてすぐ、コンビニの見方が変わった。決まった場所に長時間拘束され、毎日同じ仕事を繰り返す者にとって、コンビニというのはただ便利な店ってだけじゃないのだ。バイト先からコンビニに向かう束の間の散歩も、毎日ちょっとずつ変わる品揃えも、今日は何を食べようかな、と限られた中からベストなご飯を選ぶ時間も、労働に欠かせない貴重な息抜きなのだ。

バイトを始めた頃は、そんなふうに再発見したコンビニのありがたみに浮かれ、美味しそうなお弁当にもあれこれ手を出してみた。ところがそういうものはカロリーも高く、見た目より美味しくなかったりもするし、何より案外すぐに飽きる。それで次第に、コンビニフードの中でも体によくて、美味しくて、飽きがこないものを探すようになった。ゆで卵というのはその代表格である。塩味はちょっときついけど、良質なたんぱく質は日々衰えていく体に必要な栄養素である。

バイト先の早番は朝7時半から始業なので、通勤途中のコンビニではもっぱら、ゆで卵とわかめおにぎり、それにヨーグルトを買って出勤する。フロントデスクにスタンバイして、まっさきに朝ご飯を食べる。普通のホテルならご飯はバックヤードで食べるのだろうが、うちではみんな、堂々とフロントデスクで食べる。この前、例によってフロントデスクでおにぎりをかじっていると、イタリア人のゲストが「ボナペティ」とにこやかに手を振りながら去っていった。外国人カスタマーは、労働者にも食事が必要なことをよくわかっている。

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