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本の紹介日記 vol.2


 本の紹介日記、海外文学編5冊。

 前回の更新分は解説書的な文献(しかもだいぶ偏りが強い)が多かったので、毎回書籍の種類ごとに「〇〇編」としていく。

 

『バートルビー』ハーマン・メルヴィル


 舞台はNYウォール街。法律事務所に助手としてやってきた青年バートルビーは勤務から数日経ったある日、頼まれた仕事を「その気になれません(リンク先の2011年刊行の和訳)」と言って断る。そこから何を伝えても「その気になれません」と、仕事のみならず通勤や自分自身の行動全てを拒絶していく。
 「I would prefer not to」は訳者によってニュアンスが変わる。「できればしたくないです」の方が多く見受けられる。バートルビーの雇い主である弁護士の視点で物語は進んでいく。ひたすら不気味な他者であるバートルビー。この特徴的な言葉の背景には何が潜んでいるのかを読み解いてみたり、語り手の手の焼き具合に同情してみたり。もやもや宙吊りになる。すっきりしない。
 

『デミアン』ヘルマン・ヘッセ

 エミール・ジンクレエル少年が不良に強請れられていたところを救ってくれた友人デミアン。彼はジンクレエルが漠然と憧れていた世界へと導いてくれる存在だった。自分自身の「明」の世界と、彼が教えてくれた「暗」の世界を揺れ動きながら真の自我を求めていく物語。
 子どもの頃の内向的で思春期特有の自意識に悩んだりしていた時、ふとなんとなく、同じ環境にいながら違うところを見ているような友人の姿があった。デミアンはそんな人。友人といえど、特別に親しいわけではないような描写。「人間の生活は、自己自身への道である」と書かれているように、デミアンがきっかけで内面への道を見つめてく主人公に僕はとても共感した。


『死者』ジョルジュ・バタイユ

 目の前の他者の死を体験し、身を犠牲にした状態から森へ駆け出すマリー。夜明けまで裸体で、裸足で、洗っていない身体で、酒を浴びるように飲み、吐き、叫び、暴れ回り、喧嘩し、排泄し、死に近づいていくような自分の姿に恍惚し、虚空を仰ぎ、やがて朝を迎える。
 正直あらすじと言えるのかも不明瞭だし、汚穢さと共にあるこの小説(と言っていいいのか?)を紹介して大丈夫なのか一端の不安すら覚える。エロティシズムを提唱したバタイユの作品で最初に触れたのがこの「死者」だった。今思えばかなりバタイユ感(?)が「凝縮」されているから読みやすい方かも。
 多方面へのエクスタシーを「小さな死」であると述べた文献を読んでから、ダイレクトな性的行為以外の視座でエロを考えられるようになった。



『ベニスに死す』トーマス・マン

 初老の作家であるアッシェンバッハは旅先のベニスで美しい少年と出会う。神々しいまでの美しさに惹かれていくなか、自身が創作してきた芸術への眼差しを疑ったり、老いていきながら生を全うしようとする姿が徐々に垣間見えてくる。圧倒的な「美」を目の前にした時の人間の姿。
 映画だとアッシェンバッハは音楽家だが、小説だと作家である。個人的マイベストムービーであるこの作品、小説でも何故か泣かされてしまった。芸術と生活環境だったり、老いと若さだったり、芸術の理論的な思考と純粋な感性だったり、生と死だったり、あらゆる二面性でもがきながら創作活動を続けてきた作者本人の芸術性が溢れ出ている作品。新潮文庫版収録「トニオ・クレーゲル」もお勧め。



『イワンのばか』トルストイ

 ロシア民話。あるところに軍人セニョーン、太鼓腹のタラーズ、馬鹿なイワンの三兄弟がいた。そこへ悪魔がやってきて、三兄弟を陥れようと企てる。兄弟たちは無一文となるが、イワンは「ばか」と言われるほどに働き者で欲がなく、悪魔の言葉がまるで効かなかったため逆にやっつけてしまう。それでも悪魔はまたやってきて、兄たちは再び罠にかかってしまうが、イワンの「ばか」にはやっぱりどんな誘惑にも乗ることはなく、やがて悪魔が自滅していく。
 一度は聞いたことある作品名だと思う。「ばか」は直向きさや無垢さとも言い換えられるかも。「働かざる者食うべからず」的な教訓が読み取れる。
 権力やお金で見栄をはることに興味を持てず、「ばか」とは言われないまでも、ある意味で「真面目」や「考えすぎ」と言われてしまう自分に辟易していた時に読んで、なんとなく元気を貰った。
 







 ポール・オースターも入れたかったのでこれは後日だな。カフカとか入れた方が良かったかな。
 それぞれ読んだのがだいぶ昔なので、ちょこちょこ読み返しながらこの記事を書いた。全部当時と感想があまり変わらなかった。

 次は何編にしようかな。

 前回の紹介日記で載せた書籍を購入したという報告をいただいた。なんだか嬉しかった。ありがとう。

 ではまた。

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