対詩「uyis/気象点検」蜆シモーヌ×故永しほる
詩集『壁、窓、鏡』の感想をいただいたのをきっかけに、詩人の蜆シモーヌさんと対詩を行いました(感想は以下の記事から読むことができます)。
対詩のルールは以下の通り。
・2025年1月4日中に完成させる
・一人の持ち時間、行数制限はなし
・最後に全行をリバースして読み替える
ちなみに、全行をリバースし「逆詩」として再構成するのは、蜆さんが詩集『壁、窓、鏡』の味わい方として見つけた「リバースの法則」が由来になっています。
また、企画の打ち合わせ時に偶然目に入った、最果タヒの詩「ぼくの葬式」(『現代詩手帖』2025年1月号掲載)を、「順詩」における発句にあたる詩句(「逆詩」においては結句)として引用しています。※が当該作品から引用となります。
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対詩「uyis/気象点検」蜆シモーヌ×故永しほる
【順詩】
ぼくが息をすると時間が進む森の中で、雪が降っている。※
うそをつけるあいてならたとえば
きみはだれでもよかった
けいはくさがひとつのただしさだったから
掟は、毒と潔白を示し (蜆)
理想的な
洋服だけが浮かんでいた
鮮明な画面としての
日本語に頬をおしあてる
体温の位置を確かめる
それでも
死後に腐っていくこと
私の身体も
信じることができていない
仕組みとして (故)
逃げるからだを
大人はわかってくれない
似たぼくを
見つめかえしているあいだに
動物の痕跡が
なだらかなせなかの
砂丘に
あつい影を
うちつけてひざまずく
記憶は
名前から剝がされては癒え (蜆)
かすかな歳げつが
じょう剤を舌の上でとかすときの
なま臭い光
あるいは、汗は
ひとよりも思い出にちかい温度
こ指の先に
雪原のような痛みがあった
ぼくは毎年そこをおとずれて
みずうみがあって
あし跡のない思い出をみる
傷口はそこで
みずからにかい復している (故)
今世紀
別離を告げるはなだ色の雲たちは
薄着して
たくさんの孔を
ぬれた
ポリエチレンのとげのしたにかくし
水へ溶けだす
生前の姉を呼ぶ
ああ、沖から病院が流れ着く
不整脈の、石油コンビナートを引き裂く
海潮音よ (蜆)
私はとおくに故郷を失った
ここには未来しかなく
時代に鍵をかけたのは、いつのことだったか
二つの理由が生家に戻り
潮風の染みた一通の葉書として
ポストの中で生まれ育った蝶が届く (故)
そして
都市の化石から
冬が再生する
右から左へ (蜆)
いちまいのかみを
よむためにささげられたもの
いろちがいのうそはほんとうで
ぼくをひらくのがすきだった (故)
【逆詩】
ぼくをひらくのがすきだった
いろちがいのうそはほんとうで
よむためにささげられたもの
いちまいのかみを
右から左へ
冬が再生する
都市の化石から
そして
ポストの中で生まれ育った蝶が届く
潮風の染みた一通の葉書として
二つの理由が生家に戻り
時代に鍵をかけたのは、いつのことだったか
ここには未来しかなく
私はとおくに故郷を失った
海潮音よ
不整脈の、石油コンビナートを引き裂く
ああ、沖から病院が流れ着く
生前の姉を呼ぶ
水へ溶けだす
ポリエチレンのとげのしたにかくし
ぬれた
たくさんの孔を
薄着して
別離を告げるはなだ色の雲たちは
今世紀
みずからにかい復している
傷口はそこで
あし跡のない思い出をみる
みずうみがあって
ぼくは毎年そこをおとずれて
雪原のような痛みがあった
こ指の先に
ひとよりも思い出にちかい温度
あるいは、汗は
なま臭い光
じょう剤を舌の上でとかすときの
かすかな歳げつが
名前から剝がされては癒え
記憶は
うちつけてひざまずく
あつい影を
砂丘に
なだらかなせなかの
動物の痕跡が
見つめかえしているあいだに
似たぼくを
大人はわかってくれない
逃げるからだを
仕組みとして
信じることができていない
私の身体も
死後に腐っていくこと
それでも
体温の位置を確かめる
日本語に頬をおしあてる
鮮明な画面としての
洋服だけが浮かんでいた
理想的な
掟は、毒と潔白を示し
けいはくさがひとつのただしさだったから
きみはだれでもよかった
うそをつけるあいてならたとえば
ぼくが息をすると時間が進む森の中で、雪が降っている。※
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