事業会社で働く悩める経理の方向けに、監査法人対応効率化のための船中八策を伝授したい
この記事の目的
この記事は、事業会社で働かれている経理の方で、大変お忙しい中、監査法人の対応をされている方向けに記載をしています。
筆者のご紹介
14年ほど大手監査法人にて監査業務をやってました。直近1年半程度は事業会社で監査法人に対する対応も行っています。
監査法人対応をなぜ効率化すべきなのか
一言でいうと、事業会社側にとって、お金や利益を全く生まない活動だから、です。
よって、効率化できたほうが、事業会社側に大きなメリットがあります。
しかしながら、監査法人の監査やレビューが完了して初めて、有価証券報告書や四半期報告書をEDINETに提出できる、公表できる、取締役会で決算を承認できるため、法令上、絶対に監査法人への監査に対応しなければならないものでもあります。
では、以下より「監査法人対応効率化のための船中八策」を伝授します。
方策1:能力が高い方に来てもらう。
監査のやり方というのは、実施する方の判断で、どのような資料を依頼するかも含めて、ある程度の裁量があります。
能力が低い方というのは、監査の意見形成とはもはや全く関係のない依頼をしてしまうことがよくあります(実は、監査法人の中でも「それ、関係なくね?」とか怒られたりしてします)。
具体的には、監査手続上必要のない証憑を依頼したり、トンチンカンな質問をしたりしてしまいます。
監査にかかった時間というのは、最終的には、監査報酬という形で事業会社が費用として負担することになりますので、すこしでも能力が高い方に来ていただいて、無駄のない監査をしていただいたほうがよいわけです。
そのためには、非常に嫌らしい言い方になりますが、能力の低い方を監査チームから排除する動きをとる必要があります。
この点は、上席者(CFO、管理部長クラス)、監査役、内部監査人などに、報告しておき、必要なタイミングで、そのような方々から、監査法人にしっかりと、複数のルートからお伝えしていたければ、チームから自然と排除される、あるいは関与時間は減っていくと思います。
方策2:経理部のスケジュールを説明する。
意外に思われるかもしれませんが、監査法人の方は、あまり経理部内の業務やスケジュールを知りません。
月次決算で忙しいときに変な依頼してくるなよ、とか、予算とりまとめで忙しいときに大量の依頼してきて頭おかしいんじゃないの、とか思われることがあるかもしれませんが、監査法人側はわざとやっているのではなくて、単純に、事業会社側の都合、業務、スケジュールを知らないんですよね。
なので、経理部側の繁忙期や繁忙週を事前に説明してしまって、そうでないときに監査対応したいから、それまでに資料依頼をちゃんとしてね、とかヒアリングの予約をしてね、と伝えるのがよいかと思います。
方策3:監査法人が監査をタイムリーに実施していることを確かめる。
以前であれば、往査して監査をしてもらっていることを直接観察できたのですが、リモート監査が導入されて、ちゃんと監査をしてもらっているのかどうか、直接観察することはできなくなりました。
さすがに、監査しているでしょ、と経理の皆様は思われるかもしれませんが、監査法人勤務の方は、複数のジョブを同時並行で監査を進めていることが常なので、何もアクションがないと、優先順位を下げられて、後回しにされることがよくあります。
このため、監査スケジュールを把握して、まとまった監査期間の後には、クロージングMtgを開催して、どの程度監査を実施いただいたか、監査進捗について、直接報告をしてもらうことをお勧めします。
タイミングとしては、①個別監査を実施いただいた最終日、②連結監査を実施いただいた最終日、③往査最終日、④決算短信を発表する2~3日前(直前日だとほぼ直せないので)等がよいと思います。
監査が進んでいなかったら、ちゃんと監査を実施してほしいと、上席者からクレームを言ってもらいましょう。
方策4:システム閲覧権限付与により、資料依頼~提出のやり取りから解放される。
経理その他のシステムでクラウドサービスを活用されることも多いと思います。
その場合には、監査法人にも積極的に閲覧権限を付与して、ご自由にご覧下さい、とすることで、依頼~提出の煩わしさからは、解放されると思います。
方策5:チャットツールの活用により、履歴をすべて残す。
監査法人は離職率も高いですので、チームメンバーの退職や他チーム退職者の影響で玉突きで監査メンバーが変わるといったことは、常にあります。
このため、同じ説明を別の方に、何度もしなければならないケースも多い状況があるのではないでしょうか。
このような中で、メールでやり取りしますと、過去に宛先に入っていなかった方への情報共有に大変手間がかかりますので、Slack、Teamsなどで、すべてやり取りを一元化し、やりとりの履歴はいつでも検索できるように残したほうがよいかと思います。
そうすることで、過去に監査チームの○○さんに連絡したことを、メールを探して、再送信する、説明する、といった手間はなくなります。
方策6:監査法人からのヒアリングやMtgは録画して残す。
毎年同じことをヒアリングされているけど・・・と疑問に思うことあるかと思います。
監査法人も同じ事を聞くのは、実は申し訳ないと思っています。
今では、Zoom等でも簡単に録画できますし、携帯でも簡単に録画、録音できます。
ヒアリング対応やMtgをしたら、監査法人側で議事録をつくって共有などされていると思うのですが、時間がもったいないですので、録画して、すぐに共有してしまいましょう。
近い将来は、直近話題になっています、生成AIの関連サービスにより、議事録のサマリーなどが簡単に作られるようになるかもしれませんね。
また、有益な分析や提言をAIがしてくれるかもしれません。
そういう意味でも、録画データは積極的に残しておきましょう。
方策7:三様監査のスケジュールを調整する。
視点は違えど、監査法人監査のほか、内部監査、監査役監査と三重の監査があります。
経理部として、監査法人に説明したことを、別途内部監査担当や、監査役に改めて説明するのも大変ですよね。
よって、監査法人からヒアリングの依頼などがきた場合には、内部監査担当にも相談して、極力三様監査のスケジュールを事前に調整いただいたほうが、対応は楽になると思います。
方策8:(最終手段)監査法人を変える。
冒頭で説明しましたが、様々な方策をとっても、なかなか監査の効率化ができない、監査法人の仕事の仕方が許せない、監査法人に対して不信感が拭えない、といった状況があった場合には、監査法人を変えるというのも、最終の選択肢としてはございます。
ただ、この点は、会社として、大きな決断になりますので、上席者(社長、CFO、管理部長クラス)、監査役、内部監査室などに、報告して、社内でじっくりと協議の上、また後任監査人が監査の効率化に協力的な法人であることを、しっかりと確かめる必要があることは言うまでもありません。
最後に
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
新型コロナウイルスによるパンデミックが明けても、リモート監査が中心となり、もはや監査法人が本当に監査をやっているのか、監査見積書や監査契約書に記載されている監査時間が本当に正しいのか、よくわからなくなってきました。
監査法人は、監査工数がかかればかかるほど、監査報酬が増加する説明となりますので、あまり、監査工数を減らすインセンティブは彼らの内には、本質的にはないように感じます。
このため、事業会社側で取りうる最善の対抗策としては、上記で説明した「監査法人対応効率化のための船中八策」を駆使して、監査法人対応を極限まで効率化する、ということではないかと思い、桜の散る季節にこのnoteを記載しました。
経理の皆様にとって、すぐにできることは少ないかもしれませんが、少しでも、監査法人対応でご苦労をされている方の、ご参考になりましたら、望外の喜びでございます。