事業会社目線で、監査報酬交渉をする上で気をつけるべき3つのこと
この記事の目的
この記事は、事業会社で働かれている管理部、経理部、内部監査部等の方で、大変お忙しい中、監査法人のご対応をされている方向けに、記載をしています。
2023年3月期決算の事業会社の皆様は、月次決算、月次通常業務に加え、株主総会、有価証券報告書、臨時報告書の提出、第一四半期決算の準備と、6月はお忙しい時期を過ごされていると思います。
こんな忙しい中、監査法人から、ペラ1で監査報酬見積書が提出され、今年も監査報酬増額でお願いしますと、監査法人から急に言われると、どっとお疲れがでてしまいますよね。
そうならないためにも、事業会社目線で監査報酬交渉をする上で気をつけるべき3つのこと、を今日はお話したいと思います。
筆者のご紹介
14年ほど大手監査法人にて監査業務をやってました。直近1年半程度は事業会社で監査法人に対する対応も行っています。副業で、少しですが、一般事業会社の方に監査法人対応のご支援をすることもあります。
その1:監査業務に対する解像度を上げる
一般的に、監査報酬は、単価と監査時間に分解できると思いますし、監査法人からも、そのように説明を受けると思います。
監査法人からは、〇〇の理由で監査時間が増加見込みです、とか、〇〇の理由で単価が上昇傾向です、といった説明を受けると思います。
これだけ聞くと、そうなのか、じゃあ仕方ないか・・・、と思ってしまうのですが、そこで終わってはいけません。
監査業務に対する解像度を上げていきましょう。
監査業務に対する解像度とは
具体的には、監査業務を以下7項目に分解して理解してみましょう。
誰が(ランク構成、会計士なのか、非会計士なのか、単価の理解含む)、
いつ頃(○月頃)に、
どれくらいの時間をかけて、
どのような目的(財務諸表監査、Jsox監査、単なる理解目的なのか)で、
どの会社・拠点(重要な構成単位や重要な事業拠点について、どう考えているか含む)・対象プロセス・主要な科目を対象にして、
どこで(往査するのか、リモート監査なのか)
どうやって(どういう監査手続によって)
監査をする予定なのか、これらを、監査工数、監査単価に紐づけながら理解していきます。
監査業務に対する解像度を上げる効果
これらの理解は、大変手間かもしれませんが、経理部や管理部だけで行うのではなく、内部監査部や常勤監査役とも連携して理解をしていきます。
このような理解の結果として、
例えば、監査手続の中で、監査人自ら一生懸命資料を作り、分析をしていたが、その資料は自社の経営企画で作成したものがある、ですとか、
これまで監査人が大量の時間を使って、相対的に監査証明力が弱いと思われる画面ショットや証憑のコピーを大量に確認していたが、システム閲覧権限付与や確認手続等、別の監査手続の実施により、監査証明力が強い手続を簡単に入手できてしまう、ということがあるかもしれません。
これらの事例は、
実は、単価の高いランクの方がやろうとしていた監査の仕事が、単価の安いランクの方でもできる可能性がある、ですとか、
実は、時間をかけて監査人が作成していた資料が作成する必要がなかった、ですとか、
実は、時間をかけてやろうとした監査手続が、はるかに監査証明力の強い他の監査手続で代替が可能のあった、
ということの示唆であることがわかると思います。
このように、監査業務の解像度を上げ、監査工数や単価を多く見積もってしまっている分野がある場合がは、率直に監査法人にはその旨を伝えて、ランク別に見た単価×数量、を業務毎に精緻に検証していくことが監査報酬交渉を行う上では重要かと思います。
その2:監査業務への協力をコミットし続ける
監査報酬や監査工数のお話の前提として、監査に関する依頼がきた場合には、誠心誠意、タイムリーにご対応し、極力早く、監査を終えていただき、結果として工数がかからない効率的な監査を実施できるよう、最大限コミットする必要があります。
これから、努力します、ではなく、監査対応は必要なことであり、事業会社にいる全ての人間に理解を得て、これまでも、そして将来に向けて監査業務への協力にコミットし続ける必要があります。
その安心感や、誠実性がない会社は、監査報酬のお話以前に、監査契約がなくなる可能性があると思っています。
その3:監査報酬の相場を知っておく
公開されている監査報実施状況に関する統計情報は、毎年出ていますので、一読すべきと考えます。会社規模ごとに、監査工数、監査報酬、単価の統計情報がわかります。
また、競合企業の有価証券報告書、監査の状況からは、監査報酬がわかりますので、そのあたりも最低限調べていく必要があります。
あの競業企業で、この水準であるのだから、当社は、この水準であるとおおまかな、推定はできるのではないでしょうか。
ただし、なかなか、事業会社特有のお話もあると思いますので、このあたりは、監査経験が豊富な会計士の知り合いがいれば、工数、報酬、監査手続、監査範囲について相談してみるのも良いかもしれません。
最後の手段として、お見積り金額について、他の監査法人にも少し聞いてみるということも、ありうるかもしれません。
最後に
本日は、事業会社目線で、監査報酬交渉をする上で重要な3つのことについて、お話させていただきました。
その1:監査業務に対する解像度を上げる
その2:監査業務への協力をコミットし続ける
その3:監査報酬の相場を知っておく
この3つは、何も監査報酬交渉の時期だけに実施する話ではなく、日常的に監査法人のご対応される方が、アンテナをはって、実施し続けることではないか、と思っております。
監査報酬は、株主と、株主から経営を委託された経営者との間に生じる情報の非対称性から発生するエージェンシー問題を解決するために設計されたガバナンスにかかる必要経費であると理解しています。
このような趣旨のものであるため、監査報酬はとにかく安ければよい、その逆で、高くてもよい、というものでも、当然ありません。株主が妥当と考える監査報酬を負担すべきなのです。
とはいえ、本記事で取り上げた「監査業務に対する解像度を上げる」「監査業務協力へのコミットメント」に関する話は、監査するもの、監査されるものの連携を強化し、よりガバナンスを強化する方向につながる話であると信じております。金商法の監査報告書に記載されているKAMに対する議論も、より、中身のあるものになると期待ができます。
言うまでもなく、ESGのGがガバナンスの頭文字であり、ガバナンスへの注目は日々増しています。
しかしながら、ガバナンスに関する言葉は世の中に溢れているものの、女性社外役員選任の議論等を見る限り、どこか形式的・象徴的な言葉として取り扱われてしまい、本当に心の底から、ガバナンスへの貢献を誓って日々お仕事をされている方、というのは、実は、日本において、多くはないのではないか、ガバナンスに対する価値観は、まだ世間に一般化していないのではないか、と日々疑問に思うことがあります。
監査報酬交渉から、最後はガバナンスの議論になってしまいましたが、この記事がきっかけとなり、真の意味で、ガバナンスに少しでも興味をもっていただける方がいらっしゃったとしたなら、情意投合、望外の喜びでございます。
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