二重国籍の維持と国籍選択について
二重国籍を維持することは可能です! !
どちらかの国籍を放棄する必要はありません。
隠す必要もありません。
堂々と二重国籍であると言うことができるんです !
はじめに : このnoteは以下のような方で
・ご自身が重国籍の方
・お子さんが重国籍の方
以下のような悩みをお持ちの方が
・国籍選択はしなければならないのか?
・国籍はどちらか一方を選ばないといけないのか?
・二重や複数の国籍を合法的に維持することはできるのか?
実際にどうしたらいいのかが分かるように書きました。
子供の国籍選択や日本国籍が取れなかったことについて、私自身が悩み、考え、調べてきたからです。そして私たちの長女は15才になる前に国籍選択を行い重国籍を維持しています。私たち家族の状況は以下に記しています。
二重国籍は可能
最初に結論です ! 出生や親の帰化等により自動的に重国籍となった場合、二重国籍、さらに複数国籍でも維持することは可能です。
しかも、国籍選択をしてもしなくても重国籍は維持できます。
ただし国籍選択をするかしないかで生じる違いはあります。
出生による国籍取得は日本や多くの東アジアの国では親の国籍を取得する血統主義、アメリカやブラジルのようにその国で生まれれば国籍を取得できる出生地主義をあわせ持つ国、ドイツのように親の滞在期間等の条件付きの出生地主義など国によって異なります。
二重国籍が可能なケース
・片親が外国籍で出生と同時に自動取得
・外国で生まれその国の国籍を自動取得
・親の帰化により未成年の子供が国籍を自動取得 (例 アメリカ)
二重国籍とはならないケース
出生によらず、自らの意思で外国籍を取得した場合には日本国籍は失われます。二重国籍にはなれないのでご注意ください。
アメリカなどの国で帰化しても日本に通知がいくわけではないので、戸籍が書き換えられるわけでもなくパスポートも更新できてしまったりしますが、その場合でもこの11条により外国籍を取得した時点ですでに日本国籍は失われています。もしその状態で日本に居住していれば不法滞在になりますし、日本のパスポートを使用すれば旅券法違反になります。この11条に関しては現在違憲訴訟が進行中です。
国籍選択をすると二重国籍になれないケース ?
もしこれと同じような規定をしている国があるとすれば、日本国籍を選択した時点でその国の国籍は失われるかもしれません。
日露ハーフのケース
日本とロシアのハーフでロシア国内で出生した場合は出生による二重国籍となりますが、ロシア国外で出生した場合にはロシア国籍は自動的に取得しません。出生後にロシア領事館で出生届(簡易帰化届け)を出すとロシア国籍を取得しますが、自動的に日本国籍を失うので注意が必要です。
※以下は在ロシア日本大使館サイトより
台湾籍について
日本は1972年の中国との国交正常化後は台湾を国として認めていないので台湾籍は正式な外国籍として扱われず、台湾に帰化した証明では日本国籍の離脱は受理されません。そのことからも台湾籍を持っていることで国籍選択の義務があるとするのは理不尽と言わざるを得ません。
* 参考: 総務省の情報公開審査会答申(令和元年度(行情)答申第295号)の14ページ
※ 日台重籍の問題に関する詳細は LiuK氏の一連のノートをご参照ください。
二重国籍は違法なのか?
そうはいっても二重国籍は違法じゃないの?という疑問は二重国籍の子供を持つ親からも聞きます。日本では二重国籍は「ずるい」とか「悪」であるというような世論があるのでなんとなく二重国籍はいけないことと思っている方もいるようです。
確かに領事館のサイト等には、「日本の国籍法は、単一国籍が原則です」「国籍選択をしていずれかの国を選んでください。」「選択しない場合は、日本の国籍を失うことがあります」などという表記があり、これだけ見れば二重国籍は禁止されているように見えます。建前はそのようになっていますが、実際の法律条文やその運用をからは違う面が見えてきます。
国籍法では「重国籍を認めない」という条文はありませんし、「認める」という条文もありません。
「国籍法が複数国籍を違法だ、禁止すると規定していなければ、政策的にいいか悪いかは別として、違法つまり法律違反とはなりません。」(近藤博徳弁護士)*
法務省自らの推計では90万人もの重国籍者がいることになっていますが、法務省はその重国籍を認めないとはしていません。パスポート発行申請時に外国籍があると申告しても、パスポートはちゃんと発行・更新してくれます。
外国籍を与えるかどうかはその国が決めることなので、日本の法務省が外国籍の有無の実態を把握することは不可能です。ましてや婚姻や親の帰化等で本人も知らない間に自動的に国籍が付与されている場合もあります。
ということで重国籍の発生は避けられないし、重国籍者を把握することはできないのです。実際国籍法上もその運用上も二重国籍の排除を徹底していません。
国籍唯一の原則という考え方は、紛争解決の手段としての戦争が頻繁に行われていた20世紀前半までの考え方で、1930年の国際条約である「国籍抵触条約」では確かにそれが示されています。しかし時代は変化し現代はさらに国を超えて人々は移動しているので、世界的には重国籍を容認している国は増えており、先進国のほとんどは重国籍容認国となっています。
法律は人間が作ったものであり時代や国によって違いますし、その解釈や運用も変化するものです。
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*シンポジウム 「複数国籍の是非と『国のあり方』」2018年5月26日資料より
国籍選択の義務
国籍に関することは国籍法で定められ、国籍選択についてはその14条で規定しています。
※ 注 : 18才成人制度により2022年からは国籍選択は20才までにすることに変更されています。
※ 14条は1985年施行の改正国籍法の規定なので、それよりも前に重国籍となっている場合はすでに国籍選択をしたものとして扱われます。
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「選択」という言葉からはどちらか一方を選ぶという印象がありますが、国籍選択の手続きはあくまでも日本側の国籍を確定する手続きです。日本の制度で日本の国籍を選択したからといって、日本が外国にそれを通知するわけではありません。また国籍選択は「宣言」なので外国籍を離脱した証明を必要としませんし、外国籍を持っていることの証明もいりません。
実際には以下の3つのパターンがあります。
1. 国籍選択をして他の国籍を放棄する人
2. 国籍選択をして重国籍を維持している人
3. 国籍選択をしないで重国籍を維持している人
どれを選択するのも個人の自由ですが、それがどのような意味を持つのかを理解することは大切です。
国籍選択をしないとどうなるか
それでは国籍選択をしないとどうなるのでしょうか?
このように法務大臣から「催告」されるかもしれないことになっています。
15条はさらに以下のように規定しています。
催告を受けて国籍選択をしなければ日本の国籍を失ってしまうとあります。逆に言えば催告がなければ失わないということですね。
そして、この催告が行われたことは今まで一度もないんです。そしてこれからも催告があるとは考えられません。
なぜなら、ある人が外国籍も持っているかどうかは外国の法律によるもので、法務局は誰が重国籍者かを完全に把握することはできないんです。重国籍と分かっている人だけに催告することは、法律は平等に適用するという原則に反してしまうのでできないのです。
催告について政府は国会答弁*1 で「相当慎重に行うべき事柄である」としていますし、法務省は「国籍選択の履行は複数国籍者の自発的な意思に基づいなされるのが望ましい」*2 と表明しています。
ということでわざわざ国籍選択をしなくても、それが法的義務を履行していないということであっても、そのまま重国籍は維持できてしまうのです。
*1 平成16年6月2日衆議院法務委員会での法務省民事局長房村精一参考人の答弁
*2 日本弁護士連合会「国籍選択制度に関する意見書」10ページより
戸籍上の記載
ただし選択宣言をするとしないでは戸籍上の記載は異なってきます。
国外で生まれて*出生と同時に二重国籍となった場合は、出生届け内にある留保届けにチェックをして同時に留保届けを出しているはずです。戸籍にも【国籍留保の届出日】が記載されます。
* 留保届は出生から3ヶ月以内に出さないと出生にさかのぼって日本国籍を取得できません。
国籍選択をすれば以下のようにその項目が追加され、記録に残ります。国籍選択をしなければ留保の状態のままです。
つまり、戸籍謄本が必要となるような手続きの度に、その人は国籍選択の義務を果たしているのかどうかがわかるのです。例えばパスポートの更新時です。在外領事館ではそのようなケースは今は少ないようですが、国籍選択をされていないことを理由になかなか手続きをしてくれない、または国籍選択を迫られるといった事例はあるようです。しかし、国籍選択をしていなくても日本国籍があるのだからパスポートの発券は可能です。
パスポート申請
パスポートの申請や更新時には、外国籍をもっているかという設問に答えなければなりませんが、外国籍がある場合はもちろん正直に申告します。外国籍があることでパスポートが取得できないということはありませんし、ないと書けば虚偽の申告となってしまいます。
日本国内で生まれて重国籍となった場合
外国人の配偶者との子が日本で生まれて重国籍となった場合、国籍留保はされないので戸籍上も留保の記載はありません。
国籍選択をしないことのリスクはあるのか?
蓮舫氏は国籍選択をしていなかったことで「25年間違法状態だった」と叩かれ民進党党首を辞しました。実はこれは真実ではなかったのですが、それはさておき、というか真実でないにもかかわらず国籍選択をしていなかったことが大きな足かせとなってしまった例です。
政治家の場合は確かに特殊ですが、国の代表候補になるようなスポーツ選手であれば国籍選択をしないと代表選手にはなれませんし、著名人になると後からそれまでの違法状態をさらけ出されて叩かれるという可能性もあります。
また日本の公的機関の仕事を受けることになった場合、悪意のある敵対者が「国籍選択をしていない法律違反者」であることで引きずり落とそうとするかもしれません。
そのようなことになることはまずないのだからそんなことを案ずる必要はないかもしれませんが、国籍選択さえしておけばそもそもその心配は必要ありません。
国籍選択とは
法務省のサイトには以下のチャートがあります。
国籍選択の方法は4つあるのですが、当然ですがここには「選択しない」という選択肢はありません。
国籍選択をした場合はサイトの記述そのままで以下となっています。
日本国籍の選択宣言
↓
国籍の選択義務は履行したことになる。
↓
外国籍喪失していない場合は、外国国籍の離脱の努力
そして他の3つの方法では「重国籍は解消される」とありますが、日本の国籍選択宣言による場合はその記述はありません。
( 他の箇所では「いずれかの国籍を選択する必要」があるとしている一方でこのチャートでは色やデザインもソフトで、選択宣言をすれば義務は果たしているから離脱の努力をするだけだよ、と優しく言われているように感じるのですが、これは勝手な個人の感想です。)
それでも国籍選択宣言をしない派の人がひっかかることは、国籍選択届けの真ん中に太字で記載されている以下の文言です。
国籍選択宣言 「日本の国籍を選択し、外国の国籍を放棄します。」
この書類は日本に提出するものであって、これによって外国籍が失われることはありませんし、法律上の選択義務を果たした上で重国籍の維持は可能なのです。が、選択義務を履行しないことよりもこの書類に署名押印をすることに後ろめたさを感じる人はいるようです。(この用紙は法令で指定されたものではないようです。)
国籍選択をした後は
16条ではこのように外国籍の放棄は「努力義務」となっています。そして罰則規定はありません。
それでは「努力義務」とは何でしょうか? Wikipediaでは以下のようにあります。
よって努力をしてもしなくても罪に問われることはなく、また何を持って努力しているかというのは客観的に判断できるものであるとは限りません。
国籍法3条の違憲訴訟を担当し最高裁判決を勝訴に導いた近藤博徳弁護士は共著「二重国籍と日本」(ちくま新書) の中で以下のように書いています。
上記はもちろんひとつの見解であって他の見解もあるでしょうが、少なくとも違憲訴訟を担当するような弁護士の言葉として参考になると思います。
ということで国籍選択をすれば
・国籍選択の法的義務を果たし
・戸籍上も留保状態から国籍選択状態となり
そして法律違反をしていると後ろ指さされる心配もありません。
国籍選択はいつすべき?
国籍選択は20才(18歳成人制により2022年より)までとなっていますが、それまで待つ必要はありません。
逆に20才を過ぎてしまっても、いくつになってからでも国籍選択は可能です。そこで、何歳になってからでも子供が自分の意思で考えるようになってから自分で決めたらいいという考え方もあります。
20才までに国籍を持つことの意義を自分で認識して判断できるかどうかはわからないのだから、15才になるまでなら親が代理で国籍選択届けを出すことができるので先にしておくべき、という考え方もあります。
私たち家族では後者を取り、長女は14才の時に国籍選択の届けをしました。
※ 国籍選択は在外公館に提出する場合は戸籍謄本が必要ですが、本籍地の役所に郵送すれば戸籍謄本は必要ありません。
重国籍の子供に、そして孫に、、、伝えるべきこと
子供や孫たちは場合によってはあまり日本語を解さないかもしれませんが、彼らが日本国籍を持っていてそれを継承したいのであれば、ここまで書いて来たことは知っておく必要があるでしょう。
さらに、
なんと出生届けは3ヶ月以内に出さないと日本国籍が取れない !
ハーフであってもクオーターであっても、その人に日本国籍があればその子供も日本国籍を取得できます。ただし、外国で生まれ出生により重国籍となる場合は3ヶ月以内に留保届けを出す必要があります。1日でも過ぎれば日本国籍は取得できないのです。例外なしです。ホントに。
実は私の次女は領事館への出生届けが2週間遅れたために受理されませんでした。私達夫婦は当時は共に日本人でしたが次女は出生とともにドイツ国籍を取得しましたが、期限の3ヶ月以内に領事館に出生届けを出さなかったために日本国籍が得られなかったのです。ちょうどこの当時12条に対する違憲訴訟が行われていたのですが、残念ながら2015年に最高裁で敗訴となっています。
ただしこの場合には以下の救済条項があります
これにより、住民登録をおいて一定期間居住することにより日本国籍を取得することができます。さらにこの場合には外国籍の放棄は要求されません。
こうしてみてきたように、法律というのは知ろうが知るまいが適用されてしまい、国籍を取得することができないなんてことが起きてしまうので、国籍法の基本は抑えておく必要がありますね。
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以上、みなさんが国籍選択をすべきかどうかを決める時の判断材料となれば幸いです。
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