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表情作りの話 第四話~混合表情~
「コミュニケーション・トレーナー」の荒木シゲルです。
今回のテーマは混合表情です!聞きなれないタイトルが続いてると思いますが、私が今とても興味を持っているトピックです。
予めお伝えしておきますと、これまでの三話は過去の研究等で明らかになったことの紹介がメインでしたが、今回は個人的な見解が多め、ほぼそれだけの内容になります(笑)。あと、ちょっと長文です…。
混合表情とは
混合表情とは複数の感情が混じった表情です。
前に表情は音楽のコード(和音)のようなものだと書きました。
例えばCのコードに含まれるはド、ミ、ソで、その音階が含まれるメロディとCのコードは相性がいいです。そういった演奏は正統派というか、心地よい音色に聞こえます。ここに別の音が加わると、ときにマイナーとかセブンスといったコードになって、ジャズィーになったり音色に深みが増すことがありますよね。表情にも同じようなことが言えるんです。
例えば幸福の表情である「笑顔」で考えてみます。
誰かがけん玉を練習していて、一番上の棒に玉を入れる技がなかなかでなくて、長い練習の末に初めて成功したとします。きっと「ヤッター!」ってなりますよね。そんな「幸福」と共に「驚き」の感情を抱いたとき、二つの感情が混じった表情が顔に現れます。
または、秘かにある男の子に思いを寄せている女の子がいて、自分から思いを伝えられないでいたら、親友が彼と付き合うことになったと報告されたとき。アニメやドラマでありがちな設定ですよね。親友を前に「良かったね」と笑顔を見せつつ、そこに「悲しみ」の表情が混じっていれば、見ている人は彼女の心境を察するはずです。このとき「本当は私も好きだったのでちょっと悲しい」といったセリフを言うより、表情で、つまり非言語で見ている人に伝えるほうがずっと洗練された表現となります。
複数の感情(表情)が混ざることで、単に「うれしい」とか「悲しい」というだけでなく、「うれしくてびっくり!」とか「笑顔だけど本当は悲しい」というように複雑な感情を表現するので、深みが出て人間味が増す訳です。
複雑な感情を抱いていると表情も複雑になるものです。表情分析をするとき、「驚き:50%、恐怖:30%、嫌悪:20%」のように各感情を割合で示すことがあります。ちなみにどうやってそんな割合を出すかというと、二話目で紹介した万国共通のそれぞれの表情で使われる表情筋が定義されているので、どの感情に属している筋肉がどれだけ使われているかを計算するのです。
という訳で今回は「万国共通の7つの表情」を二つ混合させた表情を作り、その印象や効果について考えてみたいと思います。
総当たりで2つの表情を組み合わせてみると全部で21パターンになります。
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早速みてゆきましょう。
の前に、まずは真顔から。私のニュートラルの顔はこんな感じ。
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二話目で紹介した「万国共通の7つの表情」もまとめて載せておきます。
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これらを掛け合わせていきます。
最初は「幸福」とその他の表情を合わせた混合表情です。
混合表情を作ってみた!
幸福との混合表情は比較的日常でも使われることが多いと思います。笑顔は言いづらいことをマイルドに伝えるときや、険悪な空気にならないように否定するときなど、ネガティブなことをオブラートに包む効果があるからです。特に日本人は「集団主義」の民族ですから。
0102 幸福と驚き
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幸福と驚きの混合表情は予期していなかった幸運なことが起きて驚いている、幸福が瞬間的に強調された印象です。プライベートでも商談でも誰かに会ったとき、こんな表情で挨拶をしたら印象は随分良いと思います。
幸福と驚きに満ちた毎日を暮らしたいものです。普段からこの笑顔を心がけてみようかな。
0103 幸福と怒り
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幸福と怒りの混合表情は残酷、好戦的な性格のキャラクターが戦うことに幸福感を感じている印象です。サディスティックな感じですし、これからいたずらをしようとしていたり悪だくみを企てているようなときにも使えそうです。日常でこんな顔で話しかけられたらちょっと怖いですね。私が大好きな「シャイニグ」という映画で、斧で穴を開けたドアから顔をのぞかせる有名なジャック・ニコルソンの表情は、まさにこんな感じでした。
0104_幸福と悲しみ
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幸福と悲しみの混合表情は悲しんでいるときに思わず面白いことがあって笑ってしまったように見えますし、逆に悲しみが強調された顔のようにも見えます。またはコミカルに悲しんでいる表情でしょうか。
知り合いに少しだけ悲しみの表情を混ぜて笑う女性がいるのですが、その方は目上を人を動かしたり場を仕切るのがとても上手です。悲しみの表情は相手に同情の念を呼び起こす効果があるので、何か頼まれると周囲は「可哀そうだから言うことを聞いてやるか」という気持ちにさせるのかもしれません。
口角を上げる動きと下げる動きを同時にすると、ほうれい線が強く出ます。私はもともとほうれい線がくっきりあるほうなので良くわからないですね。
0105_幸福と嫌悪
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以前表情分析の勉強会で「最近『幸福と嫌悪の混合表情』で笑う若者を良く見る」と話題になったことがあります。最初ピンときませんでしたが、意識してみると確かによく見かけることに気づきました。タレントのフワちゃんの笑顔が正にそうです。この記事のトップのイメージ、いろんな表情が並んでいる2列の中にもあるんですよ。良かったら探してみてください。
この表情をしている人が嫌悪感を抱いているとは限らないと思います。解釈するとしたら、自分に対して自虐的な嫌悪感を抱いているといったところでしょうか。結果的にやんちゃでいたずらっぽい印象になり、とても魅力的な笑顔になります。幸福と嫌悪が混じることでいたずらっぽい笑顔になるってことがとても意外で、私が混合表情に興味を持つきっかけになりました。
0106_幸福と軽蔑
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幸福と軽蔑の混合表情だと思って見ると、相手を馬鹿にしている嫌な奴に見えます。ただ、この「軽蔑」もいろんな経緯があるもので、自分に対する自信や優越感から現れることもあると思います。
ルパン三世や名探偵コナンといったヒーローキャラもよくこの一方の口角を上げた笑い方をすることがあります。それは彼らが戦っている敵に対して挑発的な笑みを浮かべていることになり、悪を軽蔑している訳です。
口角を一方だけ上げることが軽蔑の表情だと知ると悪い印象を持ってしまいますが、要するに状況次第なのだと思います。ただ、個人的には意識してこういう笑い方はしないように心がけています。
0107_幸福と恐怖
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幸福と恐怖の混合表情は恐怖が強調されている、また笑顔で恐怖感情を抑えようとしいている表情でしょうか。沢山の表情筋を使うのでかなり難易度が高かったです。
気が弱い人が困った状況で作り笑いする時にこういう笑顔になるのかもしれません。
0203_驚きと怒り
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ここからは、驚きと他の感情の混合表情です。
「驚き」は感情を強調する効果があると思うので、どの感情とも比較的相性が良いです。
さて驚きと怒りの混合表情ですが、「驚き」は眉毛を上げて「怒り」は中央に寄せるので、結果的に顔の上部は「恐怖」と似た表情になるのが興味深いです。
それにしても怖い表情ですね。繁華街で肩をぶつけられてガラの悪い男がこんな表情で絡んできたら、すぐに逃げましょう。
0204_驚きと悲しみ
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驚きと悲しみの混合表情は突然の悲報にびっくりしている、という感じでしょうか。全体的に上下に広がる「驚き」に対して、眉毛の中央だけを上げて口角を下げる、という「悲しみ」を合わせるのは意外と難しかったです。
0205_驚きと嫌悪
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驚きと嫌悪の混合表情を実際に作ってみて、自分がこんな表情をするのかとちょっとびっくりしました。嫌いなものやその状況を見て驚いている、またはすごく困っているような印象ですかね。この後は「怒り」ではなく、「悲しみ」に感情が移っていきそうなイメージです。
0206_驚きと軽蔑
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驚きと軽蔑の混合表情は、一つ目の「嫌悪」との混合とやや似ていますが、驚きの度合いが大きく「困っている」というより「呆れている」ように見えます。しばらく放心状態が続きそうです。
0207_驚きと恐怖
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驚きと恐怖の混合表情は「恐怖」の表情に目の見開きと口の開きが増すことで、文字通り怖いものに対して驚いている、または単に恐怖が強調された印象になります。幽霊をみたり、巨大化した蟻を見たような時でしょうか。セリフをあてるとしたら、「恐怖」だけだと「やめてくれよ~怖いよう」なのに対して、「驚き」が加わると「助けてくれー!」ですかね。
0304_怒りと悲しみ
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ここからは「怒り」とそれ以外との掛け合わせです。
怒りと悲しみの混合表情はとても深みがあるので個人的にはとても好きです。「怒り」を覚えつつ同時に「悲しい」気持ち。
あんなに可愛かったアナキンが成長してダースベイダーになってしまった時、彼を子どもの頃から知る人たちはそんな気持ちだったに違いありません。もともと「愛」がある上で「怒り」の感情を抱いたとき、こんな表情になるのだと思います。
恋人のためを思ってウソをついたのに、そのことが相手にバレてケンカになってしまったようなときとか?
0305_怒りと嫌悪
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怒りと嫌悪の混合表情はとても相性の良い組み合わせだと思います。憎しみを持って相手を攻撃するような感じでしょうか。
振り返ったらこんな顔で誰かにじっと見られていたら怖いですよね。そんなときは先ほどの「驚き」と「恐怖」の表情になってしまいます。
0306_怒りと軽蔑
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怒りと軽蔑の混合表情も同じく相性がいい2つの感情です。攻撃的な行動に移るというより、内なる怒りを増大させているイメージでしょうか。正義感ようなものも少し感じるので不思議ですね。
0307_怒りと恐怖
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怒りと恐怖の混合表情は筋肉を力ませる2つの表情を合わせるので、なかなか作るのがハードでした。臆病であるがあまりやけくそになって相手を攻撃するようなときの表情でしょうか。
0405_悲しみと嫌悪
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ここからは「悲しみ」と他の表情の混合です。
悲しみと嫌悪の混合表情は二つの感情の要素を盛り込むのが個人的にとても難しくて苦戦しました。敗北してしまったことに対して悔しいときの表情でしょうか。泣くのをこらえるときに子どもはよくこういう表情をするように思います。
0406_悲しみと軽蔑
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悲しみと軽蔑の混合表情はふてくされているように見えます。たしかに「ふてくされる」気持ちというのは、悲しみと軽蔑が混ざったような気分かもしれないですね。あるキャラクターが敵に攻撃されたとして、これから反撃して戦おうというなら怒りと軽蔑の混合で、強がったことを言いつつ負けを認めてしまっているときにはこの悲しみと軽蔑の混合が適切なんだと思います。
0407_悲しみと恐怖
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悲しみと恐怖の混合表情もなかなか難しい表情でした。
「悲しみ」はショボンと肩を落としていて消極的な感情ですが、恐怖は我を忘れて逃げ出したくなるような行動的な?感情だと思いますし、そういう意味では真逆の感情だと言えます。恐怖を感じるくらい「悲しみ」が大きいと解釈すれば、悲しみが強調された印象になります。悲しみの最大級といった印象ですね。
0506_嫌悪と軽蔑
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嫌悪と軽蔑の混合表情は、それぞれとても似た感情なので、相性は悪くないです。醤油と塩を混ぜたような感じです。嫌悪、もしくは軽蔑が強調されているイメージで、最大限にモチベーションが低い人がこういう表情をしそうです。
0507_嫌悪と恐怖
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嫌悪と恐怖の混合表情は、嫌な気持ちが大きくなり、恐怖を感じているような状況で、後先考えずにやけくそになって攻撃してくる人の表情かもしれないです。
「サイコ」という映画で女性がシャワールームで襲われたときはこんな表情だったかもしれません。
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軽蔑と恐怖の混合表情もなかなか難しい組み合わせでした。口を横方向に開きつつ、片方の口角を上げるのがなかなかできず、何度か撮り直しをしました。その結果なぜか必要以上に鼻の穴が膨らんでしまいましたが、ご容赦ください。不本意な形で攻撃されたり、なっとくできない状況で殺されそうな恐怖を抱いているときでしょうか。
まとめ
これで全てになります!
なかなかのハードワークでしたが、自分が普段しないような表情を作ることができて、とても楽しかったです。
21種類全ての表情を作ってみての感想ですが、比較的作りやすい組み合わせと、そうでないものがありました。今回、できるだけ2つの感情が顔全体で均等に表れるように努めたのですが、どちらの感情を多めにするかによって印象が随分と違うものになると実感しました。また、顔全体で混ぜるのではなく、顔の上半分と下半分で別の表情を作る混合のさせ方もあると途中で気付きましたが、それはまた追々実践してみようと思います。
キャラクターアニメーションの表情を作るときに参考になりそうですし、何より表情作りの練習になり日常のコミュニケーションにも活かせそうですので、皆さんもよろしければご自分で試してみてはいかがでしょうか。
最後まで読んで頂きありがとうございました。