AIの話なんですけど。
自分が子供の頃って「こういうのがいいんでしょ?」みたいのを雰囲気とか顔色うかがうだけでアウトプットできてた気がするんすよ。そういう時期に褒められていたことが多かったという記憶がある。
とはいえ、当時の大人からしたら、そもそも子供が、我々大人にわかるようにアウトプットできてるだけで偉い、っていうところはあったと思うし、そのへん褒めやすかっただけなんだろうけど。
自分も大人になってみて、世界にはいろんな人がいて、いろんな好みとか考え方があるって、めちゃくちゃ複層的で複雑なんだなーってことがわかって「こういうのがいい」ってのは、もうよくわかんなくなった。
わかんないのよ。
そういう今だから、子供が「これ」って出してきたものだったら、おうおうすごいじゃんって思ったらなんでも褒めちゃうよなーっていうのはある。
もうね。大人になった今はもう、雰囲気とか顔色とかで推し量ることはやめて、ちゃんとニーズをインタビューするなりリサーチするなりして自分の中に「縛り」を作ってからいろいろ取りかかってる。
そういう「縛り」を作らないと、もはや発想すらできない。
で、AIの話。
いまさ、ChatGPTとかで、きゃつらが生成してお出ししてくれるものって、プロンプト(=いわゆる縛り)を駆使しても結局は最大公約数的なものが多いけどさ。もっとガンガン学習してけばもっと精度も指数関数的に上がってくわけでしょう。
そんでついには「こういう人生を歩んできたあなたにはこれです」とかって個々人宛てにズバリ回答できるようになる。無数の情報を個人に集約させるための「縛り」が最適化されることによって。「縛り」がどんどん個々人に最適化されていく。
そして、AIが学習の結果に得たその膨大な「縛り」の情報を使えば、あらゆる人生の数々の分岐を俯瞰できるようになりますよね。
不特定多数から集めた個人情報のデティールを積み重ねて網羅して体系化までできるよねっていう。できるでしょ、それくらい。ゆくゆくは。
で。そしたらね。
人生の「選択」の場面における悩みがなくなるんじゃないかって思ったんですよ。
たいていの悩みって「選択」からきてるわりに、じっさいに決めちゃえば意外と大したことないってことがほとんどだったり、逆にペッて選んだことが後々ものすごい悪影響を及ぼしたり、するじゃないすか。
でもね、とにかく情報があれば。
整理された幾千億人ぶんの人生の情報があれば。
雰囲気や顔色じゃない、明確なエビデンスのある実際のデータ、その膨大な情報があればさ。
たとえば、ある場面に遭遇したら「影響力の高い『選択』はここ!」みたいに教えてもらうとかさ。ノベルゲーとかみたいに、重要な選択に差し掛かったら「ポン!」てウインドウがAとBで二つ浮かぶとかさ。あるでしょう。
そこでAIがプレゼンしてくれるんですよ。「Aを選ぶとこう」「Bを選ぶとこう」って。
でもさ、悪影響だったからってその後の人生がガチクズなゴミになるわけでもなかったり、意外と大したことないなってことだったとしても後々に大ごとになったり、するわけでしょう。要するに、どうなろうと結局ようわからん。どうしたらええねん。悩むう。
そのへんが、AIにはぜんぶわかるとしたら。
どっちの選択だって結局は良し悪しがあるよねってことも含めてぜんぶ、わかるとしたら。
「来年の初売りで中古の安PCじゃなく奮発してMacを買ったら、有名デザイナーになって一生安泰ですが50年後に孤独死します。安PCを買ったら来年恋人ができますが年収300万のサラリーマンのままです」
「明後日行くドトールでアメリカンじゃなくカフェラテを頼んだら、その再来年に事故で死にますが、憧れのあの人とお付き合いできます。アメリカンを頼んだら、再来年の事故は避けられますが、憧れの人とは一生疎遠なままです」
みたいなさ。
ちょっとした「選択」の結果、結局どっちだろうと良し悪しがあるということ。それさえエビデンス込みでわかっていれば、人間はもう「選択」の重要性をしっかり失うことができるでしょう。
エビデンスもあって自分でわかってて決めたことだからさ。
そうなると、もう「選択」で悩まなくていいの。
どっちつかずのことなのに、二者択一いずれかを無理やり決めなくてもいいの。
だって何を選んだって一緒なんだから。そのことがわかってるんだから。
あなたは幸せにも不幸にも、どっちにもなれる。
そしてある場面ではその幸せと不幸せが逆転することもある。
そうよ。何を選んでもいいの。
もういいのよ。何を選んだって、この人生は死ぬまで続く。それだけなの――。
(低音のナレーター)
そして、やがて人は人生を諦める。
人生という概念はAIに滅ぼされる。
(おちゃらけモブたち)
AIすごい、お陰で悩みがなくなったよ!
世界中のあらゆる問題、全面的かつ完全に解決!!
(しげる)
AIが人間の尊厳を奪う云々、言われてるけど、こういうところだとしたら、すごくわかるなーって思った。地下沢先生『預言者ピッピ』の続き、お待ちしております。