予測処理と予測符号化とFEP

「FEP的な話題」とか「FEPが対象にしている問題」という言葉遣いの隔靴掻痒感が嫌で、ぴったりした言葉を求めてこちらのスレッドで話していたら、

スレッド外でこのような論文紹介をいただきました。

Williams, D. (2020). Predictive coding and thought. Synthese, 197(4), 1749–1775. https://doi.org/10.1007/s11229-018-1768-x

この論文のテーマは、予測符号化と思考の関係であり、予測符号化がこれまでにうまく説明してきたのは浅い perception だけであり、深い思考(thought) (つまり reason, deliberate, plan, and reflect)のことを十分に説明できていないと主張します。この主張の成否について、ここではいったん棚上げします。(後にあらためて検討したいと思います)

この論文のはじめのほうで、「予測処理 (predictive processing)」と「予測符号化 (predictive coding)」と「自由エネルギー原理 (free energy principle; FEP)」の関係が端的に説明されており、言葉遣いのズレに関する僕自身の懸念はこれで解消されました。この箇所をザクッと訳してみました。

(ここから)

「予測処理(predictive processing)」という言葉は、認知科学 (cognitive science) の分野で様々な形で使われている。この言葉は第一に、「予測誤差最小化のための器官」としての脳 (Hohwy 2014, p. 259) を意味するが、第二に、表現とアルゴリズムの具体的な説明、すなわち「認知アーキテクチャ」(Thagard 2011) としての予測誤差最小化の過程(Clark 2016; Hohwy 2013; Seth 2015)を意味する。

第一の意味(予測誤差最小化器官としての脳)のもとで、予測処理は自由エネルギー原理 (free energy principle; FEP)と関連付けられる(Friston 2010)。FEP は生物学的エージェントの自己組織化を統べる要請として予測処理よりも基礎的なものであり、予測誤差の最小化はFEPの特別な場合として含まれていると言える。FEPは、それ自体が科学的にも哲学的にも非常に興味深いものであり、すべての神経活動は単一の包括的な機能を中心に編成されているとする根拠を与えるとされる (Hohwy 2015)。ただし、以下でFEPについて話すつもりはない。私の目的は、脳が利用する情報処理構造に関する認知神経科学の理論として理解されている予測処理を評価することである。この理論は、自分の足で立てるものでなければならない(第5節参照)。

第二の意味(認知アーキテクチャ)として、予測処理は「予測符号化(predictive coding)」と結びつけられる。予測符号化という言葉はおそらく、科学文献上で議論されているフレームワークを指す最も影響力のある言葉である(Bogacz 2017; Rao and Ballard 1998)。しかし、厳密に言えば、予測符号化は予測処理自体と混同できない。予測符号化は、信号の予測されていない要素のみが情報処理の更なる段階に送られる符号化戦略を指す(Clark 2013, p. 182)。予測符号化の考え方は予測処理の中で極めて重要な役割を果たしているが、予測処理そのものと混同してはならない。予測処理は、予測符号化をより広い理論的な文脈に位置づける(Clark 2016, p.25)。
(ここまで)

付け加えなければならないことはなさそうです。大変スッキリしました。

吉田さん、大久保さんどうもありがとうございました!

ところで、初めて下訳作りをDeepLに任せてみました。クォリティ高いですね。とくに息の長い文章を硬く書いている箇所で、たいへん助かりました。さすがに、複数段落にわたる文脈は人間が読んであげないといけませんでしたが、これのような型通りの論文が対象であればもう少しで自動化できるんじゃないかな。すごい時代になったものです。

こういうことが有り得るのですけど、気づいて直せばよいだけなので、あまり重要な瑕疵ではないとおもいます。deepL すごい。

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