「器量のある医師」と巡り合えるかが「全身的慢性疼痛疾患であり、全身に激しい痛みが起こる病」を患ったモノにとっての第一関門なのだ。
『医師の間では、「そもそも診断の是非について議論のある線維筋痛症と診断することは妥当なのか」という、極めて根本的な論争があり、決着していない。医療情報専門サイト「m3.com」が2013年に実施した調査では、「『線維筋痛症』と診断するか」との問いに対して656人が回答し、「診断に反対する」と回答した医師が30%で、「診断に賛成する」と回答した医師22%を上回った。「どちらとも言えない」と回答した医師も48%存在しており、同編集部は、「診断基準に該当する患者が存在する一方で、疾患としての妥当性に賛同しきれない状況を反映しているのかもしれない」とコメントしている。分かりづらい言い回しだが、要するに「線維筋痛症という病気は本当にあるのか、診察した医師が疾患を特定できなかった慢性痛に対して、便利に使っているだけなのではないか」ということだ。~原因は不明であり、画像診断などでは異常がみられず、検査法も確立されていないことから診断が非常に難しいため、「患者の多くは診断されるまで、何箇所もの医療機関を何年にも渡って回り続けることになってしまう」という過酷な現状がある。そして、線維筋痛症に限らず、「診断が難しい」とされる疾患の患者の多くは、「疾患名が分かってホッとした」と喜び、なかには嬉し涙を流す人さえいる。検査で何ら異常がみられず、病気であることが証明されないと、「詐病」や「怠けている」などと家庭や職場で疑われ、追い詰められてしまうケースも少なくないからだ。それだけに、診断を下す医師の責任は重大なのだが、適正に行われていないケースはかなり多い可能性がある。~北原教授は言う。「日本では、医師も患者さんも、診断名という呪いにかかっているような気がします。患者さんは医師に対して、何が何でも診断名を求めてしまう傾向がある。しかし、慢性痛に対して診断名がついたところでほとんどいいことはありません。急性痛は別ですがね。慢性痛の多くは生活習慣に起因するもので、何よりも大事なのは、痛みを生んでいる生活習慣を変えて、痛みに支配されない生活を取り戻すことなのです。なので、病名がついたからといって、慢性痛の治療方針は変わりません。一方、医師は、研究段階で病名がないと研究費が出ないとか、製薬会社からお金が出ないなどの現状があるので、なんとか病名を考え出すという習慣があるのかもしれませんが、患者さんが可哀そうです。生活習慣病を含む慢性疾患の多くは複雑系なので、因果関係がはっきりしません。そこに無理やり因果関係を持ち込み病名をつけようとするから無理が来るのです」さらにもう1点。「治療の一環としての減量が効いた」ということで思い出されるのは、レディー・ガガさんだ。彼女も、病気療養に入る前は激太りしていたが、復活した際にはすっきりと痩せていた。北原教授は、ガガさんの「線維筋痛症」も、音楽活動のストレスと過度の肥満から来る筋痛症だったのではないかと疑っている。「線維筋痛症に関しては、過剰診断による誤診の温床になっていると私も感じていました」千葉大学医学部付属病・総合診療科の生坂政臣教授も、線維筋痛症の診断には懐疑的だ。『総合診療医ドクターG』(NHK)の出題者として全国区の知名度を持つ生坂教授が率いる総合診療科は、「どこに行っても診断がつかない、臓器横断的な見方でないと診断がつかないような、隙間に落ち込んでいる病気、あるいは複合的な原因が合わさり、診断がつきにくい病気を自費診療で診る」――そういった医療の駆け込み寺的な診断を、セカンドオピニオン外来として引き受けている。診断専門で、的確な診断をした後は、個々の地元の病院へ引き継ぐ。「(線維筋痛症は)客観的指標に乏しく、生物学的マーカー(血液での異常値)がないために、原因不明の全身痛を訴える患者に対して鑑別疾患を十分想起できない医療者が、この疾患に無理矢理押し込んで誤診してしまう傾向は以前からあります。特に、米国リウマチ学会が2010年に出した診断基準で、1990年以来、本疾患に特徴的とされていた18ヵ所の圧痛点の存在を外したことから、全身痛を来す多様な疾患のくずかご的な診断名になりつつあることを危惧します。当外来にもそのような患者さんが時折受診されます」(生坂氏)診断基準から圧痛点の存在が、重要であるにも関わらず外されたのは、圧痛点の評価が経験と技術を要する難しいもので、一般的な臨床医が用いるにはハードルが高かったからと言われている。日本でも、診断には一貫して米国リウマチ学会の分類基準を参考にしているが、最新の『線維筋痛症診療ガイドライン2017年』の見解では、まずは2010年または2011年の基準を用いて診断し、整形外科疾患や精神疾患が鑑別に挙がる場合は1990年基準で確認することを推奨している。前出の生坂教授が重視する「18ヵ所の圧痛点」については、「4kgの力で押し11箇所以上痛く、また広範囲の痛みが3ヵ月続いていること」を評価の条件にしているが、11ヵ所以上でなくても専門医の判断で線維筋痛症と診断されることもあり、徹底はされていない。~現に今、方々の病院を渡り歩いた末に「線維筋痛症」と診断され、懸命に治療に励んでいる患者さんにとっては、本稿の内容は酷かもしれない。無論、幸いにも治療効果を実感している場合には、現在の主治医を信じ、治療を継続するのがいいだろう。しかし、もしも効果を実感できずにいるのなら、病院を変えるという選択肢もある。北原教授は「慢性の痛み政策ホームページ」で紹介されている病院を、信頼できるとして推薦している。参考にしていただきたい。』
私の場合も「線維筋痛症」と診断されるまでに紆余曲折があり、診断された時点で行えた多数の検査をしても原因が判らず、当時の痛み止めと言われる薬を多数処方されても根源的な痛みが緩和しないので、結局は生活習慣の改善として体質改善用の漢方薬と睡眠改善用の薬でなんとか日常生活に支障が出ない程度になってきただけである。この記事の様に「線維筋痛症」という病自体がフィジカルとメンタルに跨り複雑系の病である以上、賛否両論はあるだろうが実質的には「偽り」としてシロクロ付けてしまう訳にはいかない状態でもあるのは確実だ。現に私も普段は我慢できる痛みに成ってきた状態でも症状が悪化すると1週間殆ど寝たきりになってしまう事もいまだにある。『突然生まれた不自然な病』という言い方は適当ではない気もするが現代医学とはこの様な「グレー」な病に関しては扱いが雑で「無いモノ」とされたり「偽り」というレッテルを貼るので更に混乱を招いてしまうのだ。まずは患者の症状と真摯に向き合い、患者と一緒に緩和法や鎮静法を模索できる様な「器量のある医師」と巡り合えるかが「全身的慢性疼痛疾患であり、全身に激しい痛みが起こる病」を患ったモノにとっての第一関門なのだ。
八木亜希子さんも罹患…突然生まれた不自然な病「線維筋痛症」の正体
そもそも「診断の是非」に議論がある
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/69887
慢性の痛み政策ホームページ
https://paincenter.jp