これまでのハリウッドの悪習を葬り去ろうとしたのかもしれない。
『こうして振り返ってみると、ブラッド・ピット率いるPlanBが制作した『それでも夜は明ける』と『グローリー/明日への行進』が、ハリウッドにおけるアフリカ系アメリカ人の躍進の礎を築いたといっても過言ではない。ブラッド・ピットは、なぜこれらのような人種差別をテーマにした作品を積極的に世に生み出しているのか。金髪碧眼、剛健な肉体、角ばった顎をもつアングロサクソン的な男らしい美貌に恵まれ、俳優としても比較的若いうちに大成功を収めている。恋愛遍歴も、ジュリエット・ルイス、グウィネス・パルトロー、ジェニファー・アニストン、アンジェリーナ・ジョリーら人気女優たちとの華やかなものだ。白人男性の完璧な美貌、潤沢な資産、きらびやかな成功と恋愛……彼こそがハリウッドの権力の中枢にいる白人男性を体現しているようではないか。ハリウッドの中心にいる彼が、なぜ白人男性至上主義に対抗したのかーー。『グローリー/明日への行進』の共同制作者でもある、人気司会者で女優のオプラ・ウィンフリーのトーク番組に2004年に出演した際に繰り広げられた会話に、そのヒントがあるように思う。以下、その会話を筆者が意訳してみた。====ウィンフリー:あなたは今までの人生でずっと美男子ですよね。小さな男の子のときから小さな美男子だったわけで。小さな頃から美貌があなたの武器になると思っていましたか?ブラピ:えー、真面目に聞いているの? 自分のルックスが強みにも弱みにもなるとは小さな頃から自覚していましたね。確かに色々なチャンスを与えられましたし……。ウィンフリー:弱みとは具体的に何ですか?ブラピ:うぬぼれることですね。それに、ちゃんとした試練が与えられないことです。ほかの人には与えられなかったチャンスを私だけが与えられたこともあって、それは苦い経験でした。小さな頃は眠りにつくまで母と色々とおしゃべりするのが日課だったんですが、「なぜ世界は不公平なの?」と彼女に聞いたことがあったんです。すると彼女は、世界は不公平なもの。だからあなたには(他の人よりも)もっと責任がある、と答えました。この言葉は私の頭のどこかにいつもあるんです。====ブラピが育ったミズーリ州は奴隷制度に反対した北部と賛成した南部の境界線にちょうど位置することから、北部と南部の価値観が衝突し、さまざまなプロテストや抵抗を育んできた歴史がありながらも、人種差別がいまだに根強く残っている土地だという。経済的にも恵まれた中流家庭で育ったブラピは小さな頃から周囲に可愛いだのイケメンだのとちやほやされる一方、アフリカ系アメリカ人に対する差別を目撃してきたに違いない。高校のカウンセラーとして働いていたブラピの母親は、敬虔なバプティスト(キリスト教プロテスタントの一派)でキリスト教の保守的な価値観でブラピを育てた。彼女は賢明にも、その美貌のせいで特別扱いされる息子に、特権を享受する側に生まれたきた者には社会を改善する責任があると教えてきたのだ。』
ブラッド・ピットが出演した映画で私が一番好きなのは「ジョー・ブラックをよろしく」だ。この作品で彼は死神に身体を借りられてしまうごく普通の青年を演じるのだが死神と成ったジョーに成功した大人の男を演じたアンソニー・ホプキンスとその次女であるクレア・フォーラニが心揺さぶられ人生とは?を考えさせられる作品だ。死神に身体を借りられたジョー・ブラックの演技はとても魅力的でありながらどこかヒトでは無い雰囲気を醸し出していた。死の神を演じたブラピはこれまでのハリウッドの悪習を葬り去ろうとしたのかもしれない。
ハリウッドの白人至上主義を揺るがすブラピ。彼を育んだ母の言葉
映画制作会社「PlanB」が目指すもの
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/68215
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