展覧会レポート 村上隆もののけ京都 京都市京セラ美術館
会期 2024年2月3日(土)〜9月1日(日)
村上隆の個展は、日本では8年ぶり、公共の美術館では23年ぶりの開催。
様々な媒体でも情報が出ている通り、ふるさと納税を活用して、制作資金を集めたことでも有名なこの展覧会。来場者限定配布の5万枚のトレーディングカードは、全12種類で、日本語、英語版の2パターン。入場券1枚に付き1枚配布されたが、3日で配布終了。3/15には来場者が10万人を突破。
展示は京セラ美術館90周年記念ということもあって、新作が9割。大作も多く、未完の作品も、村上氏の解説(言い訳?)も添えられて展示されていた。
先日視聴した日曜美術館で、村上氏は「描きたくないものが65パーセントくらい」と語っていたが、それでもこのオファーを受けて、資金集めにも力を入れているのは、
「この展覧会を通して、日本のアート界の未来はきっと変わっていくと信じているから」。ジェネラルマネージャの高橋信也氏との関係性もあるとは思うものの、Youtubeチャンネルを開設したり、様々な媒体に露出したり、広告塔の役目も引き受けている。
アンディ・ウォーホルは、商業工業製品をアートに昇華させたが、村上隆は、伝統的な日本画と、日本のサブカル、オタク文化とも呼ばれているアニメや漫画をアートに昇華するスーパーフラットという概念を提唱。
現代日本の「オタク」文化はかなり細分化されていて、
アニオタ(アニメ)、ドルオタ(アイドル)、ジャニオタ(自粛)、鉄オタ(鉄道)、笑クラ(お笑い)などなど、多様な「オタク」がそれぞれの「好き」や「推し」を追い求めている。
その好きの探求が、アートにつながって、社会の概念を変える時が来ると思うと、ゾクゾクする。村上氏はそれを成し得るのか。
そして後進の若い猛者たちが、続けとばかりに、新しいアイデアを持って概念をひっくり返す姿を見てみたいものだ。
芸術は社会を変えられるのか
芸術は社会に役立つべきなのか
人はなぜ美術館に行くのか
なぜ美術館が敷居が高く感じてしまうのか
村上氏のことはよく知らなかったけれど、美術館に訪れる人々が、
ポップな作品心躍らせ、小さな子どもと親が楽しそうに鑑賞している様子に、
村上隆だからこそ美術館の敷居を低くしているのかも、とか、
社会を変える媒体になりうるのではとか、そんなふうに思わせてくれる。
生成AIを使ってデザインを決定していくとか、制作は主にカイカイキキ株式会社の制作集団が担っているとか、(村上氏は工房って言ってたけど)興味深いことが多くて新鮮だ。
その他にも、隅っこに、ちっこい犬もいた。
この正面スペースで元気に動き回る小さな子どもを連れた外国人家庭に、警備員のおじさんが近づいていくので、どうしたんだろう?と思って、眺めていたら、壁面の隅っこにいる動物を指し示し、隠れキャラクターを教えてあげていた。小さな子どもたちは、キャラクターを見つけた途端、声をあげて喜んでいて、壁面の隅から隅まで探索し始めた。
両親が警備員に感謝しているところまで眺めていてああ、こうやって、人を繋ぐアートって素敵だなぁと思った。
展示で印象的だったものを数点記しておくとすると・・・
好きだったのは、四神と六角螺旋堂のお部屋。
薄暗い内部の4方に、巨大な神様の絵が掲げられていて、そこには効果的なスポットライトが当てられている。床に壁に至る所で見かける夥しい数の異様なドクロ。ここも迫力のある大作と繊細なディティール、双方の相乗効果に息を飲む。
こちら、鮮やかで多様な色な組み合わせはポップで元気な雰囲気なんだけど、表情がみんな同じで、画一的な画面構成は異様ささえも感じるこの作品。豊かな表情の108フラワーズの愛らしさと印象が全然違う。
そしてこちら
キャプションを読んで、ごく私的な怒りに笑ってしまったけど、その思いが作品の迫力の根底にあると思うと、怒りのパワーもいいもんだなと思ってしまう。
日曜美術館で、この作品の源というべき辻氏と村上氏が、展覧会を一緒に鑑賞しながら意見を述べていく姿は胸アツだった。この作品を見た辻先生の「こういう作品を見るとスカッとするんだよなぁ」という言葉を村上氏はどんな思いで聞いていたのかな。
もちろん、この展覧会の目玉の一つである入り口すぐに展示されている全長13メートルもある、村上流現代の洛中洛外図も圧巻ではあった。
来訪日は春休み中の平日で、休日よりは人が少なかったような印象だが、それでも入り口すぐということで、立ち止まって細部に見入る人も多く、親子連れも多かった。作品に触れないようにするバリケードが、作品の性質も鑑み、見えにくくなっていたこともあって、美術館看視員が常に注意喚起の声を張り上げており、落ち着いた鑑賞ができなかったのは残念だった。
アーティスト自身が広告塔となり、展覧会の在り方を問い、日本のアート市場にメスを入れ、現代美術家を一つの職業として成立させようとしているのは、ショパンコンクールで二位を獲ったピアニストの反田恭平氏が会社を興し、音楽家自ら活躍の場を創出するという考え方的に似ているのかな。
村上氏には、芸術は社会に役立つべきか、の問い自体を揺るがしてほしいと思ったのでした。
近くの南禅寺に立ち寄ったら、桜が満開🌸でしたー。
な、なんとか4月中に1本記事が書けてよかった。。