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不正と書いて「いびつ」と読む、それが地方中小企業を取り巻く現状 - 井領さんから学んだこと(2)
SIerやSaaSベンダーは、幻を見ている。それが井領さんの考えだ。それには私も賛同せざるを得ない。地方で取材をしていると、「都会から来る人たち」への愚痴を聞く機会も多いからだ。曰く「現場を知らずに机上で考えた製品を持って大きな案件を取っていく。現場にフィットしていない、あるいは現場では使いこなせないものが導入される」など。それでも、売り込みに現場に来るだけマシかもしれない。
薄利多売を前提とした安価なSaaSやフリーミアムモデルをとるオンラインサービスの場合、営業にかけられるコストは多くない。見つけてもらい、顧客の意思で契約してもらわなければならない。Googleで「会計 オンライン」などと検索する経営者を想定して、広告を打っていく。
一方で、地方の中小企業は地元の銀行もしくは信用組合などと密接に結びつき、地元で紹介してもらった税理士や公認会計士を頼る。受発注は電話やFAX、受注票を壁一杯に貼り付けていたりする。目の前の仕事に時間を取られる中で、業務の効率化を考えたりする余裕はない。そもそも、いまやっていることが「当たり前」だと思っているし、「改善すべきもの」だとは考えていない。
完全にすれ違っている。エコシステムの重なりがない。どちらも相手を見ていない。そのままではどうにもならないいびつな関係だ。お互いが、関係する可能性さえない関係にある。
この「歪」な関係から「不」を取り除き、「正」しい関係を構築するためには、どうすべきか。一足飛びに問題を解決できる魔法の杖はない。
幻に向けて広告を打つベンダーと気づく時間がない経営者
「地盤改良からやろうと思っていましたが、今はそのさらに手前、土壌調査からやらなければならないと考えています」
井領さんはそう言っていた。SaaSベンダーが見ている幻の潜在顧客。地方で中小企業を経営する人のマインドと、その人を取り巻くエコシステム。これらが重なり合う点を作らなければならない。どこなら重なり合う可能性があるのか、現状を知ることから始めなければならない。そんな地道な取り組みについて井領さんは淡々と語った。
SaaSベンダー側の課題は、わかりやすいが解決策を見つけるのが難しい。現場を知り、自分たちが待っている潜在顧客が幻であることを知り、顧客を育てることから始めなければならないだろう。そんな時間とコストをかけてでも地方に顧客を求めるのか、あるいは都会の企業だけでビジネスを成り立たせるのか。効率だけ考えれば答は自ずと出てくる。
経営者側の課題は、ひとくくりには語れない。百人百様であり、問題のコモディティ化は容易ではないと井領さんも言っていた。ただ、ひとつだけ共通点がある。新しいことを考えたり、クリエイティブなことに挑戦したりする余裕がないということだ。時間の余裕も、お金の余裕も、気持ちの余裕もない。
「遊び」という言葉がある。自動車のハンドルでもセンター付近にあえて遊びを作ることで、操作性に余裕を持たせている。そう、遊びとは余裕なのだ。気持ちに余裕がなければ遊び心は生まれない。遊びのない日々では、クリエイティブなチャレンジなどできない。
「遊びがなければ、余裕がなければテクノロジーに目を向けることもなく、まして購入することもありません。購買力を高めるためには、心に遊びを持つところからはじめなければ」
遊びが生まれれば新しいことを考え、学び、「会計 オンライン」と検索する経営者も出てくるかもしれない。経営者自身が育っていく、その時間を待つことができるのならば。
待てない場合はどうすれば、底上げができるのか。次回は井領さんが考えているアプローチと今後の展開について書き記そう。
(ヘッダ画像制作:重森 夏)