Ep.25『親孝行とは』
(21歳、女性)
『こんばんは』
私はそうマスターに伝えると、前と同じカウンター席に座った。
このバーに来るのは3回目。
前回来た時に、私とマスターの田舎が近い事がきっかけで通うようになった。
それ以降、マスターの安心感ある対応が、唯一私の心を落ち着かせてくれる。
東京に出て来て3ヶ月。
何もかもが眩しくて、未だに慣れない生活が続いている。
今は楽しさが優先しているが、しばらくしたら、ホームシックになるのだろう。
人生初の一人暮らし。
娘が東京で一人だと、両親も心配だと思う。
それもあってか、毎日母に電話かメールをしている。
私はいつ、どんな時でも味方でいてくれる、無償の優しさを両親から受けて来た。
その恩返しで、これからもっと親孝行したいと思っている。
こんな私にも高校生の時、反抗期があった。
特に母に対して冷たく当たってしまった。
あの頃をやり直せるならやり直したい。
あの時に言ってしまった言葉を、取り消せるならそうしたい。
それでも母は、私に変わらない姿勢で接し続けてくれた。
きっと母も、おばあちゃんと同じ経験があったのかもしれない。
お互いに元気でいるうちに、色々な場所に一緒に行ったり、プレゼントを沢山送りたい。
そんなことが恩返しや親孝行になるのであれば、安いものだ。
『マスター。マスターにとって、親孝行ってなんですか?』
マスター『健康で、楽しい人生を送っている姿を見せて行くことだと思います。もちろん、プレゼントとかもいいと思う。』
そうか、私が楽しい人生を送っている姿を見せてあげるのも、恩返しの一つなんだ。
私がくよくよ悩んだり、落ち込んでばかりいたら、恩返しにならない。
もちろん、人生に悩み事はつきものだ。
それよりも、健康で楽しい時間を増やし、母に見せていくことが親孝行。
そしていつか結婚して、私もお母さんになる。
母のような良いお母さんに、なれたら良いな。
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グラス一杯の物語【シーズン3】
東京銀座にひっそりと構えるバー。来店されるお客様と、今宵最高の一杯をお出しするマスターのお話。ダサくてもホットな気持ちにさせてくれるエピソ…
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