東京五輪とグラフィックデザイナー vol.4
会社に縛られる事なくもっと楽しくもっと自由に働いてもらう為の手段としてデザインをお伝えしております。
デザイン歴18年以上やって思うロゴデザインについて
今回はロゴデザインの本来の機能と存在理由を東京五輪エンブレムパクリ事件と重ね合わせて紹介させて頂きます。
前回までのお話はこちらを
東京五輪エンブレムがパクリとなった理由
2015年 佐野研二郎さんによるデザインパクリ事件がありました。
元は東京五輪のエンブレムを作成したアートディレクターの佐野研二郎さんのデザイン案がベルギーのリエージュ劇場のロゴマークに似ているという指摘から始まった事件でした。
当時私はネットで東京五輪のエンブレムが決定し、デザイン担当が佐野さんだと知ったのですが、普通にさすがロゴタイプの達人佐野さんだと思いました。
"さすが"
この言葉の意味はそれまでに佐野さんが生み出して来たロゴをデザインの教材として見ていたからです。
がしかし、数日後テレビを観ると東京五輪のエンブレムがベルギーの劇場のロゴマークに酷似していると世間が騒いでいるニュースを観た時に、「ああこのエンブレム消えるなあ」と察しました。
決して私が誰かの作品を選べたり批評するレベルのデザイナーでも立場にあるわけでは無いのは分かっています。ただ、企業ロゴデザインを経験した身であるのとツイッターなどSNSに渦巻く実名を隠して発せられる無数の不満からなる絶え間ない「怒りの波」を感じていたからです。
現代デザインが約100年という時間が費やされ世界中で無数のロゴマークがデザインされている現実があり、更に短時間での認識させる、またグローバルなユニバーサルデザインを形成する為、形状のシンプル化が求められているロゴデザインで今までに見たことのない完璧な異形のものを出せと言われても無理だと分かっており、それをデザインの歴史や現状を知らない、さらにはデザイン自体には興味も持たない方々の理解を得るには時間や機会が足りないと感じました。
「有名デザイナーなのに盗作」それはネット民の怒り標的という好材になり
案の定ネットは炎上、過去の作品の粗探しが始まり
似ているものが続々と発見
その後の佐野さんは東京五輪のエンブレムを辞退、そのエンブレムとは別の作品の盗作疑惑で佐野さんは会社の社長として盗作を認め謝罪しました。
後者の盗作事件が佐野さんにとっての致命傷だったと思います。
結果、東京五輪エンブレムまで佐野研二郎がベルギー人デザイナーの作品を盗作した「パクリ」だとレッテルが貼られ世間の一般常識となったと私は考えています。
意図したことでは無いのに
これは、コンペ参加時の東京五輪のロゴマークの原案を見るとわかるのですがリエージュ劇場のロゴマークとは異形です。
一番左が最初の案Tokyoの 「T 」に右下に日の丸の赤い丸。
リエージュ劇場のロゴマークとは形が違います。
東京五輪エンブレム決定案とリエージュ劇場のロゴマーク
これはどういうことを意味しているかと言うと
佐野さんはリエージュ劇場のロゴマークに意図的に似せていないという事です。
普通にTokyoのTと日本らしい日の丸の赤い丸をモチーフにするというプロの日本人グラフィックデザイナーとして考案されたものだと考えれます。
(バランスの面をみてもリエージュ劇場の方は物理的に左に倒れてしまう部品の大きさ配置です。佐野さんのは赤い丸を置いた事によりバランスが取れて左にも右にも倒れない形状になっています)
さらには佐野さんの説明の中でロゴがアルファベットになるという素晴らしいアイデアが詰まっていました。
これはつまり、ロゴは物語を語る「言葉」なのだというロゴマーク、ひいてはデザインの根源を表しているとてつもない作品だと私は感心しました。
がしかし、世間が求めていたものはプロの技が仕込みんだエンブレムではなく 今までに見たこともないもの でした。
ロゴマークに求められるもの
無意味な今まで
佐野さんの過去の作品の荒探しで似ているのものが続々と現れると同時に芸能人も含めた「私が考えた東京五輪のマーク」が続々と現れました。
前項より
「 世間が求めていたものはプロの技が染み込んだエンブレムではなく
今までに見たこともないものでした。 」
富士山、鶴、桜、祭、都会の街並み、扇子、、、
発表されたロゴ案はどれも誰もが過去見たことあるシェイプばかりでした。
そしてロゴの機能が無視されているものばかりでした(ロゴの機能は以前のブログをご覧ください)。
これらのロゴはSNSで日本らしい、綺麗、色がたくさんあって華やかという好意的に捉えられていました。
似ているものが過去にある→パクリで悪。
だからロゴマークは今までに無いものが必要なのだと。
がしかし、自分の好きな芸能人が作ると→称賛の嵐
これら意見を見てもわかる通り
今まで見た事がないものが欲しいのでは無く、
今までに見たことあるものでも自分の好みに合えば良いです。
つまりロゴデザインに求められているものは「今まで見たことがないもの」では
無い
という事です。
ではロゴマークには何が必要なのでしょうか?
ここまでお読み頂いたみなさまありがとうございます。ちょっと長文になりましたので続きは次回書かせて頂きます。
それではもう秋が近づいて来ていますね。
コロナ禍の季節の変わり目どうかお体ご自愛ください。