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#7 伏兵あらわる
自分の小賢しい思惑など「運命」の前では無力だった。私が構想していた「チーム」は、アクションを起こす手前の最序盤で、小さな音すらたてることなく崩れた。いや、自ら崩した。仲間集めの構想の中で、最初に脱落したはずの「おじさん」デザイナーが先週末、急浮上したのだ。
9月6日はさっぽろオータムフェストの初日。大通公園の4丁目から11丁目がその会場となるのだが、各丁目毎にそれぞれ異なる広告代理店が企画運営にあたっている。2年前まで私が担当していた会場で、その会場のデザインワークをお願いしていた菊川さんと、イベント初日は一緒に飲むことになっていた。良いチームに恵まれ、5年以上かけて、人気会場に育ったたくさんのお客さんでにぎわうその場所で、そのチームのメンバーと乾杯する気持ちよさよ。
酒には飲まれ続けた人生。その日も私は、いとも簡単に酩酊し浮かれ気分で二軒目に移る。会話の細かい流れは覚えていない。私は菊川さんに事業構想をぶちあげた。実現可能性をゆうに超えたなアイデアとアイデアのぶつかり合いと、アイデアの上、またその上に積み重なる、1人では決して辿りつかないディテール。そうだった。この人との仕事にはこれがあった。共鳴しながら、思いもよらない角度から核心をついてくる。面白い。楽しい。
若い人を起用しようとしていたのは、本当は、自分の思い通りに動いてくれる人を求めていたということだったのだろうか。衝突したり、自分の方法論が否定されることを恐れていたのだろうか?自問自答をする。
歳をとると、頑固になり、守りに入る。若い頃、年配の先輩たちをみてそう思っていた。時を経て自分も50歳を過ぎて、それは自覚症状をもって確信に変わった。それはそれで、多分治らないだろう。譲れないものは当然増えるし、守りたいものも増えている。そこは覆せない。ただ、くだらない自分のメンツとか自尊心とか、そういう保身のために意固地になることだけは避けよう。それは本当に醜いことだから。
菊川さんはデザイン会社の社長。この事業には彼の会社の若手デザイナー2人も参加させたいとの話だった。話が大きくなってきた。
広告制作の業界は今となっては斜陽産業。グラフィックデザインの請け負いだけでは先細るだけ。ましてや地方都市の札幌ではなおさらのこと。業界が斜陽なのは間違いない。しかし、アイデアとデザインは依然として、というより、今までにも増して、その力は重要度を増すはずなのだ。