断崖絶壁のヤギ
垂直に切り立った断崖絶壁の、まあまあ高いところに点在するヤギ(アイベックスという高地に住むヤギ)の映像が大好きだ。「4本足の動物は地面にしっかりと長方形のスペースがないと、しっかり立つことができない」という先入観がある。猿や人間が壁を登るのはまだしっくりくるが、牛や馬と同じ基本体型のヤギが垂直の壁を登るのは、もはや違和感しかない。
壁はぶら下がるようにして、這ってよじ登るもので、立つ場所ではない。ヤギはニュートンを嘲笑うかのごとく垂直の壁に立つ。常識や既成概念どころではない。物理法則を軽く超越しているというのに、涼しい顔で壁を舐める。
人間のように山の頂きを目指しているわけでもない。苦難を乗り越えようとストイックになってるわけでもない。何も考えていないような、とぼけ顔で虚ろな目のまま、ただ、壁を登るヤギ。
どうやら、彼らの登る壁には生存のために必要な塩分を補給できる岩塩などのミネラル成分があるらしく、そのために無謀なチャレンジをしているらしい。もちろん、彼らの意識に「決死の覚悟で、一世一代の挑戦を仕掛ける」的な気負いはない。すでにDNAに埋め込まれた本能が彼らをそうさせるのだ。
子どもが全員家を出て、現在、夫婦二人暮らし。ペットが欲しくなっている。先日、近所のペットショップを見てきた。可愛いが、子犬の平均的な価格が30万以上だったので、びっくりした。犬と猫を飼うのはしばらくお預けにしよう。条件を考えずに、動物と一緒に暮らすとしたら、私はヤギ(アイベックス)と暮らしたい。家の壁に塩を塗るので、是非登ってもらいたい。そんな夢を見ている。