転職したいという相談への返答
僕はエンジニア向けの企業研修講師をしている中で、頻繁に受ける質問がある。それは「独立ってどう?」という類いのもの。研修を発注できるほどの資金力がある会社なので、多くの場合はそこそこの規模のある会社。だからだろうか、今までとは違う働き方を模索したくて、すでに独立して何年にもなる僕に話を聞きに来る。
最近の傾向として、新人研修の真っ最中に「将来、転職するために」という理由で話を聞きたいという新人が増えてきているように感じる。「将来、独立したい」というのは、あるけれど、まだ少ないかな。まだ新人研修中だよ?って驚くものの、それほど自分のキャリアについて真剣に考える人が増えてきたんだと思うと、それも良いんじゃないかと思える。
外資系の会社では、3年で転職していくらしい。5年も同じ会社にいると転職できるだけのスキルやポテンシャルがないと判断されるんだとか。すべての外資系企業がそうではないだろうけれど、そのくらいキャリアを自分で切り開くことが当たり前の感覚なのだろう。
以下の内容は、カジュアルに「転職したいかもしれない」的な相談に対しての話なので、もう精神的にいっぱい、いっぱいですっていう人にはこんな話はしませんので、あしからず。
転職したいんです
そう相談されたとき、いつも僕は「やめたほうが良いよ」と否定から入る。独立している僕に相談するくらいだから、たぶん後押しするような発言を期待していることは重々承知している。
居酒屋で毎晩のように会社や上司の愚痴を言っているくらいなら辞めれば良いのに。いつも、そう思っている。だって、居酒屋での愚痴ほど非生産的で、次の日、出社したときに自己憐憫するような行為はないのだから。だから、文句があるなら辞めたら良い。辞めないなら文句を言うなと思っている。それは自分のためだから。
でも、僕は簡単に「辞めたほうが良いよ」とは言えない。
一番大きな理由は、今いる会社で成果が出せない人が、次の会社に行っても成果を出せるかどうかに疑問を持つから。だから、質問されたとき、答えを出すために僕からも「あなたにとって仕事とは何か?」と質問をし返すことが多い。
多くの場合、クライアントや上司、先輩、チームメンバの期待に応え、成果を出すことだと応えてくれる。人には役割があって、その役割を引き受けて、成果を出していく。これは仕事をする上でとても重要なこと。これができていると説明してくれる人に、多くの場合、僕は「やっぱり転職はオススメしない」と返答する。
転職の理由は2つに分けられる
ネットで調べるとさまざまな統計が見られる。転職理由のランキングもとうぜん掲載されている。転職理由を大別すると、2つになる。1つ目は、人間関係。2つ目は「なんでこの会社で働いているかが分からない」というもの。
人間関係の場合は、一度リセットするのも良いんじゃないかと思う。ただ、よほどブラックな相手じゃない限り、相手の望まない反応は、自分が引き起こしている可能性が高い。被害者であるあなたが悪いと言っているわけではなく、あなたの無意識な行動が相手の反応を引き起こすことがあるという話。もしそうなら、転職しても同じ事は起きる。そのたびに、あなたは疲弊していき、そして、しだいに人を信じられなくなるかもしれない。
今の会社に居続ける意味。これも難しい。重要なポイントは、その意味を他人が与えている場合と、自分で作り出している場合では大きく違うということ。
会社に居続ける理由が、相手が与えてくれる条件に依存している場合、その条件が満たされなければ、その条件を満たしてもらえるように頑張るか、辞めるかという選択肢しかなくなる。でも、自分の頑張りと相手の評価は比例しない。結果、相手に自分の人生のコントロール権を奪われたかのように感じる。そして、自分で自分の人生のコントロール権を奪い返すために転職を決意する。でも、転職先でも相手が出してきた条件を必死に追いかけ始めるのなら、同じ事を繰り返すか、あきらめてしまうかという選択肢が待っているだけになる。
なぜ、私はこの会社に居続けるのか
その意味を自分で作り出せなければ、結局は他人に振り回される。人間関係の場合も同じ。転職すれば、心機一転、新しい気持ちで取り組めるかもしれない。その代わり、新しい人間関係にすり減り、新しい社風や新しい文化に合わせるのにすり減る。成果を出せるのは、まだまだ先のことになる。手っ取り早く成果を上げるには、新しい会社に受け入れてもらうために、相手が出してきた条件を必死に追いかけることになる。
これを何度か繰り返すと、やっぱり自分はダメなヤツなんだって自分の深層心理に刻み込むことになる。まるで無限ループに陥ったかのような気になる。これは本当に辛い。
それなら、人間関係ができあがっていて、仕事のやり方も文化も社風も分かっている今の会社で、居る意味を探したり、自分が他人をどのように反応させてしまうのかを内省したりするほうが、よほどハードルは低い。というか、どうせ辞めるなら、それくらい試してみてもバチはあたらんはず。
この会社に居続ける意味。他人に依存しない意味を見つけられたとき、たぶん、その人は高いパフォーマンスを発揮していることだろう。だって、自分の存在意義と一致した仕事をしていることになるから。そんな仕事は没頭してしまう仕事だから、よほど条件が揃わないことがなければ結果は勝手についてくる。
そうすると、そのまま会社に残っても良し。もっと自分のパフォーマンスを上げるために転職しても良し。なんなら、起業しても良い。
だから私は、「私がこの会社に居るのは、○○に没頭しているからだ。」これが言えるようになるまでは、今の会社で模索することをオススメしている。
転職を考えている人へ
自分が何に没頭できるかが分からない状況で、没頭できそうな何かを他所や他人に求めても与えてくれるものではない。それは自分で探し求めなければ見つからない。
もう無理。
そこまで追い詰められているなら、転職しても良いと思う。でも、次こそは自分が没頭できることを見つけて欲しい。転職活動をしながら、そんなことを考えながら、次の会社を探して欲しいと僕は願っている。
ワークショップやってます。
最後に宣伝を。なぜ、私はこの会社に居続けるのか。その意味を探すワークショップを企業向けにやってます。興味のある方は、お問い合わせください。