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QuizKnockのフォロワークラブ「schole(スコレー)」では、会員向けに限定動画やラジオ、メンバーブログなどのオリジナルコンテンツを定期的に配信している。その中でも「TOMOE」は、YouTubeでは普段行わないようなシンプルかつ"ガチ"のクイズ勝負を見せる企画だ。各回3人が登板する「三つ巴」の戦いを、現在は4チームに分かれたリーグ戦の形で行っている。
チームREDのメンバーとして、意気込んで出場したのが先日公開された第6戦。結果は、伊沢さんと福良さんを相手に1ポイントも取れずに惨敗だった。全く歯が立たなかった。せめてボードクイズ2問目の上村松園『焔』の問題は取れるべきだった。リーグ戦になる前の第1回「TOMOE」で同じく伊沢さんと、そして言ちゃんという強豪クイズプレーヤーにラブゲームでやられてから、また思い切り負けてしまったことになる。
リーグ戦である現在の「TOMOE」への参加を持ちかけられたとき、正直断ろうかとも悩んだ。ガチクイズとその思考を見せることがコンセプトであるこの企画において、競技クイズから離れていた自分の実力はそれに応えられるものではないと思ったし(視聴者に対して誠実であるのか?と自問した)、それを晒すことも怖かったからだ。ただ、それ以上に自分の中にはクイズをしたいという思いと、これを契機にしてでもクイズに取り組みたいという決心のようなものがあった。学生時代に真剣にクイズをやれなかったことはずっと自分の中に引っかかっているものだったし、QuizKnockという場所にいるからにはいつかその刺さった棘を抜いてやりたいと思っていた。
リーグに参加することに「OKです!」と返事をして以来、クイズの勉強として暗記アプリを使った学習を続けていた。アプリでは自分で作成した問題や導入した問題集データからクイズが出題され、覚えていない、答えられなかったクイズに間を空けて何度も取り組むことになる。それによって徐々に自分の頭に入っていなかったものを覚え、定着させていく仕組みだ。はじめは1日10分でも勉強すればいいかと思っていたものが、気がつけばルーティンとして徐々に1日にかける時間が伸びていき、いつしか1日におおよそ40〜50分くらいかけてクイズを500問ずつ解くようなことになっていた。1日にクイズを500問、平均して1ヶ月で15,000問ほど。それを3ヶ月ちょっとは続けていたので、(同じ問題に何度も取り組んでいたものではあるけれど)延べ50,000問くらいはクイズを繰り返し解いていたわけだった。
はじめに断っておくと、この50,000問という数字は決して多いものではない。今の競技クイズの世界ではポピュラーな学習の方法であるし、このぐらいの数をこなしている人はざらにいる。それにクイズ自体にかけている時間にしてみれば、座学ばかりの私に対し、日常のフリバや例会・大会への参加もある現役のクイズ研究会員やプレイヤーには遠く及ばないものだ。
それでも、やったことはゼロではないとはっきり言える数字ではあった。学生時代に後悔のあった自分にとって、僅かでも初めてクイズに真面目に取り組んだ時間だったかもしれない。元々何かを継続することはとても苦手なことだったので、それが続いたことも何より嬉しかった。会社で行われるフリバでは相変わらず痛い目を見ていたものの、「TOMOE」自体は3人という少人数の勝負でもあり、勝利とまではいかなくともある程度はボタンを付け、どうにかなるだろうと高を括っていた。
そう思っていたものの、結果はあの有様だった。その1回前の試合である高松さん、石田さんとの勝負でもリードこそ作ったものの、甘い判断による誤答が嵩んで途中失格。頑張ったから良し、とは正直言えない結果になってしまった。
TOMOEの試合が始まる直前、同じチームREDである山本さんにプレイングについて相談をしていた。くれたアドバイスは問題傾向の関係から序盤は誤答を積んでもいいので早めの「わかりそう」で押すこと、追う側はどうしても不利になること。そして伊沢さんについて、「本当に早いタイミングで押すから気をつけてほしい」ということ。
私からすればQuizKnockメンバーの中でも山本さんは普段の勉強も欠かさず、伊沢さんと比較しても遜色ない「ガチ」のクイズプレイヤーだ。そんな山本さんをして本当に早いと言わしめるのが伊沢さんの技術なんだろう。尚のこと、その伊沢さんの隣に座り、何もできずに「地蔵」と化した自分のことを勿体無いことだと思った。クイズの勉強を、いやクイズに限らない勉強をすることにおいて今身を置いている場所は贅沢なところに違いない。自分がクイズを始めたきっかけには、伊沢さんの書いた本の存在が少なからずあったし、かつて憧れていたものに触れられる機会を無碍にして欲しくないと、そう自分に対して思う。
しかし、じゃあ今回の試合がただただ悔しいで終わるかというとそんなことはなく、実を言えば感情の8割ぐらいは「楽しい」なのだった。(チーム戦である以上、楽しいだけで終えてしまうこともまた良くないことは承知の上だけれど)
50,000問のクイズを携えて負けたことも、無力感ではなく「やっぱみんな凄えや」と「そうでなくっちゃ」という思いの方が遥かに大きい。そんな簡単に勝ててもらっちゃ困る。それに、フリバでは相変わらず強豪プレイヤーにボコボコにされていたもののの、勉強の末に正解できたと言える問題もちらほら生まれており、TOMOEに限らず今はただ次に聞くクイズが楽しみでいる。純粋に、現在の私にはクイズが面白いものなのだ。次はもっと善戦したい、勝ちたいと素直に思う。たとえ、カメラが回っていない場所でも。私は伊沢拓司が、クイズプレイヤーが手懐けているもののことを、もっと知りたいと考えている。