ワークショップデザイナーへの道Ⅴ
デザインは学習目標から始まる
ワークショップデザインを考えるうえで、学習目標をないがしろにしてはいけません。学習目標の構文は
です。成果物となる●●●を最終ゴールとしながら、そこに至るプロセスをデザインします。プロセスのデザインにおいては、成果物●●●の構成要素を因数分解し、それらをワーク工程に散りばめます。
今回、倉敷市の水島地区における公共施設再編整備の住民ワークショップを担当させてもらったので、そちらを事例に振り返ります。このワークショップは、水島地区にある公民館・児童館・図書館の3つの施設の複合化計画を進めるにあたって、どのような複合施設がよいか有志で集まった住民(20名程度)で考えるというものです。
ワークショップ1日目
メインワークはブロックを使う予定なので、自己紹介からブロックを使います。
「新しい複合施設では○○ができる!」の○○に入る言葉を考えて、付箋に書いて共有するブレーンストーミングを行います。さらに、その「○○ができる」について、具体的な利用シーンを考えます。
1日目の最後のワークは「新しい施設で生み出したい光景を具現化しよう!」ということで、ワークシートにまとめてきた「○○ができる」をボードの上にブロックで具現化していきます。
ワークショップ2日目
2日目は、グループを「子ども」「文化」「交流」の3つのグループに分けてワークを行います。
最初のワークは、前回行ったブロックを使って設備を具現化するワークを行いました。前回もやっていることによる”よい慣れ”が参加の保証となり、アイデアがどんどん出るグループもありました。
これまでは、「自分たちがつくりたい!」という、ある種の自分軸の欲求にも近いアイデアを発散してきました。ここで、私たち/社会の軸を用います。「文化施設4.0」という考え方から、これからの公共施設の在り方という視点で、施設利用の具体的な光景を想像していきます。
新しくできた施設に取材が入るという仮定で、特徴的な利用シーンを考えていきます。グループで考える問いは、下記のように設定しました。
最後に、「一考の余地創造シート」をグループで作成します。シートには
整備する機能
生み出したい光景
なぜ必要なのか(背景など)
をまとめていきます。このシートには、要望する意見の解像度を上げるという意図を込めました。従来のような付箋に意見を書き出すワークも悪くはないのですが、付箋に書かれたキーワードを解釈する行為が読み手側に委ねられ過ぎているとも思うのです。そうではなく、書き手側が意見に付随する情報を詳しく伝えることで、要求のロジックを理解してもらいやすくなるのではないかと考えました。住民側も言いっぱなしではいけないのです。
一考の余地を創造するには、ただ「カフェがほしい」と要求を挙げるだけでは不十分だと考えます。なぜ必要なのか、どんな光景をイメージしているのかなど、高い解像度で要求することで、「それは一理あるかもしれない」と思ってもらえるのではないかと。
それにあたって、言葉だけでなく、ブロックなどを使ってイメージの具現化を試みることで、伝わる要素が多面的になるのではないかと、今回のワークに臨みました。
構成要素をワーク工程に
2日間に渡るワークの最終成果物は「一考の余地創造シート」で、整備する機能/生み出したい光景/なぜ必要なのかをグループで練り上げます。構成要素の分解は以下のようになります。
そのうえで、1日目は新しい施設で生み出したい光景を具現化することをゴールに、HOP/STEP/JUMPでワークを構築しました。
【HOP】 ○○ができるを考える:できることのブレスト
【STEP】 具体的な利用シーンを考える
【JUMP】 生み出したい光景をブロックで具現化(スペースレベル)
2日目のHOP/STEP/JUMPは、このようにしました。
【HOP】 つくりたいフロアをブロックで具現化(スペースのボード4つ分)
【STEP】 交響圏をもつ施設を考える:社会的価値を考える
【JUMP】 一考の余地創造シートを作る:最終ゴール
ワーク工程は、ワークで取り扱う参加者の行為(作用)を時間経過とともに難化させていくように構築しますが、そのときに行為が系統立って難化しているかを気にすることも大切です。今回の場合は、「ブロックで表現」という行為からは外れないように、系統の軸をブロックにおいて、作業内容の難化を試みました。
結果として、ワークショップは参加者に好評で、手ざわり感のある提案を成果物として練り上げることができたのではないかと思います。このワークショップで思い描いた光景が、実際に完成した施設で生まれて、「あのとき想像した光景と同じだ!」と参加者の人たちが感じてくれるとよいなと。