良い面接ってなに?
2019年6月、“滋賀ではたらく魅力を再発見する”『しがと、しごと。』プロジェクトチームは、ローカルで採用活動に取り組まれている人事(および経営者)の方々に向けて、新たに『しがと、じんじ。』というコミュニティを立ち上げました。
メンバーさんの“採用力アップ”を目的に、『しがと、しごと。』チームからはノウハウや情報を提供させていただきつつ、月1回は滋賀のどこかにオフラインの場を設け、互いの課題に向き合う機会をつくっていきたいと考えています。
今回は、6月に開催された「第0回 しがと、じんじ。」で設定されたテーマ、“良い面接とはなにか?”について、当日お話させていただいた内容を、講義部分のみダイジェストでお届けしたいと思います。
(※ 実際には、商社で人事担当を長くされている松永貢さんをお迎えし、10名ほどの参加メンバーさんと互いに意見交換したり、みんなでワークシートを埋めたりしながら進行しました。そちらの内容は非公開とさせていただいています。)
<話し手>
北川雄士/Yuji Kitagawa
滋賀県彦根市生まれ。株式会社いろあわせ代表取締役。
広告代理店、ITベンチャー企業の人事部門責任者の経験を経て、2014年にフリーの人事として独立。これまでに数千人の面接を経て来た。2015年末にUターン。ひと・もの・まちを“掛け合わせ”、それぞれが持ついろや魅力を大切にしたいとの想いで、株式会社いろあわせを設立。現在『しがと、しごと。』をはじめ、行政や地元のカフェともイベントを創り、滋賀の魅力を積極的に発信。(Twitter/Facebook)
1. なぜ採用面接は難しい?
人事経験のある方であれば、誰もが『面接』の難しさは感じておられると思います。今日は「良い面接とは?」がテーマですが、その前にまず、「どうして採用面接が難しいのか?」から考えてみます。
そもそも人間の脳は、過去の経験から判断したり、大量の情報をパターン化して、効率的に認識したりする構造を持っています。そのため、人の印象が“ちょっとした非言語情報”で簡単に左右されてしまう、ということがまずあります。
また、面接には以下のようなことも次々と絡んでくるので、余計に難しくなるわけです。
・説明をしたくなり過ぎ、自分ばかり話してしまう
・質問が場当たり的で、掘り下げる場所を間違える
・選考ポイントの理解ができていなくて、話の流れから仕事に無関係な質問をしてしまう
・面接側も緊張してしまい、相手の本音が聞き出せないまま終わってしまう
……では、そんな面接で、採用側は何から意識すればいいのか。
応募者を「見極める」ことが一般的には重視されがちですが、僕が考えているのは、大きく『魅力を引き出す』と『魅力を伝える』の2つです。むしろ、「見極め」は結果でしかないのではと思います。
この2つは、いわゆる「面接」の時間内で全部やらなくても、別に構わないかもしれません。『伝える』時間が面接で、『引き出す』のは面接以外の、たとえば終わってほっと一息ついた時間…というのも、1つの考え方です。
どういう方法にしても、選考のプロセスでこの2つをきちんと成すのが、まずは必要かと思います。
2. 魅力を引き出すには
ではまず、前者の『魅力を引き出す』から考えてみます。僕が意識するポイントは、大きく3つです。
1つ目のポイントである『受容』で必要なのは、相手の価値観を肯定すること。よくセミナーなどでも「否定しないことから始めましょう」と僕は言いますが、特に面接は、評価する人とされる人が明確で、圧倒的に応募者の立場が弱い。どうしても不安になったり、自信がなくなったりします。
そこへの理解をスタートに、まずは全力で肯定してあげるのがすごく大切です。相槌、目線を送る、ミラーリング(同じことを繰り返す)──どれも別に難しいことではないですが、それだけで相手は話しやすくなります。
そして、好意や利益を与えることも重要。自分が相手に「ええなぁと思ってるよ」ってことを伝えてあげる。その反応をするだけで、こちらにも好意を持ってもらいやすくなります。
さらに言えば、自らが先に「自己開示」すること。カッコつけずに言葉にして、「あんなん言ってるこの人…」なんて思ってもらうことで、結果的に緊張がほぐれる。そこで初めて、「しゃべっても大丈夫やな」って、思わず本音をポロっとこぼすようになってくれるんです。
魅力を引き出す2番目のポイントは『整理』です。
実際に話をしていくと、しゃべりながら「あの話どこいったっけ…?」みたいなことが起こります。特に面接は、みんながしゃべりたいことを持っているので、「志望動機を聞いていたのに、気づいたら学生時代に頑張った話をしている」といったケースはよくあるんです。
そこで面接官は、相手の発言の目的や意図を明確にする。例えば「あなたがうちを志望してくれてるポイントってここ?」といった形で、会話をまとめてあげるのも1つです。
まとめる際も、まずは相手の言葉をできるだけ使うのが良いと思います。会社への印象に対する答えが、「やさしいと感じました」と「やわらかいと感じました」とでは、本人の中で意味が違います。ミラーリングを意識して、相手の言葉のまま話をまとめ、「ちなみに、“やわらかい”ってどんなイメージなの?」と掘り下げてあげると、相手の“やわらかい”の意味がもう一度整理されます。勝手に意訳し過ぎないのも大事です。
一方で、イメージを広げる意味では、具体的な例え話に置き換える方法もあります。僕がよくやるのは、「学生時代に何部やった?」の質問のあとに、「そのとき何係やった?」と訊くんです。だいたい4〜5人集まれば、仕切り役もいれば、ボケ担当、ツッコミ係もいる。フォローの役回りもある。そんな具体例を入れてあげると、頭の中で自分のポジションや立ち位置が整理しやすくなります。
3つ目の『深耕』というポイントは、相手の思考を深めていくことです。誰でも自分のことを自分が一番分かっていないことがあるので、そこを掘り下げていきます。
方法としては、クローズドとオープンの質問の使い分けがあります。例えば「こんなシチュエーションになったらどうする?」という質問で開口に困っていたら、「ちなみに進む?退く?」の二択にしてあげて、その答えを切り口に掘り下げる。他にも、気持ちを「5段階評価」で訊いてみるのが効果的な場合もあります。
「え、何て答えたらええんやろう…」って沈黙が続くと、黙っていることに緊張して余計に話せなくなる人は、結構いるものです。ぜひ意識的に使ってみてください。
あとは、ポジション(対極)を取る方法があります。例えば、成功事例を話してくれた人に、「ちなみにそれが大失敗してたらどうした?」と訊く。もちろん一緒に盛り上がる方法もありますが、あえて真逆の視点でブレーキかけると、相手は「え、どうするかな…」と考えます。そのときの本音を聞き出すことで、思考を深めるサポートもしてあげられるのかなと思います。
そして大切なのが、自分が「決めつけてるかも」と確認することです。ハロー効果(笑顔など、分かりやすい特徴に引っ張られてしまう)や、対比効果(前後で会った人と良し悪しを比較してしまう)の影響がある前提で、「でもそうじゃないかも…」と思って聞いてあげる。こうすることで、掘り下げる幅も広がります。
結局、『魅力を引き出す』面接とは、「応募者のことを採用側が知る」のはもちろん、「応募者が自らをより深く知れる」手助けをすることかなと思います。そのためには、両者がなるべく本音で語りあったほうがいい。
その人のことを、自身も企業もきちんと知った状態になることが、働く上でも働いてもらう上でも、最もハッピーなわけです。ウソをついて隠し続けるのはやっぱり難しいですし、ストレスになりますから。
3. 魅力を伝えるには
『引き出す』の説明が長くなりましたが、面接のもう1つの役割、『伝える』についても触れておきます。こちらも大きく、『想い』・『魅力』・『事情』の3つのポイントに分けられます。
1つ目の『想い』、これは簡単に言えば「経営理念」です。“なぜこの事業をはじめたのか”、“なぜ今この会社があるのか”といったことへの理解と共感なくして、「仲間への受け入れはない」と思っています。特にまだ一般的な知名度がない企業の場合は、共感されるものをどれだけ出せるかで決まります。
2つ目の『魅力』には、「事業の可能性・必然性」「経験できること」「得られるスキル」などが当たります。例えば、裏方としてモノづくりをしているBtoB企業の場合、応募者がオモテ側から見ただけでは、「正直あんまりピンとこない…」ということがよくあります。そこを、社会にどういう価値がある事業なのか、あるいは働く社員の人生にどんな得なことがあるのかを、丁寧に語ってあげないといけない。
こう伝えると、たまに「ウチはそんな魅力なんて無いよ…」と答える企業さんもありますが、絶対にそんなことはない。そんな会社は潰れていますから(笑)。「魅力は絶対ある」という前提で、考えてもらえたらと思います。
3つ目のポイントが『事情』です。要するに、相手から見てマイナス面の要素ですね。「これを言ったら入社してくれないかも…」と思う気持ちは分かりますが、実情を隠すことで何が起きるかというと、入った後で「こんなんやと思ってなかった」と辞めていきます。
そうではなく、どうせバレるので、ネガティブ話は面接で先にきちんと伝える。魅力と一緒であれば、事情も受け止めやすくなると思います。例えば「リソースが足りてない分、かなり忙しい。でも成長できるよ」といった感じで正直に言うと、案外それが魅力に伝わるということはよくあります。
4. 期待値を調整する
最後に、僕が考える“面接における一番大事な役割”についてお話します。それは、「お互いの期待値を下げること」です。
面接の場では、どうしても「自分のことを良く見せなあかん」「会社のことを良く見せなあかん」と、お互いが期待値を上げまくります。その結果、最初から期待が高まり過ぎてしまって、働く側は「ええ…こんな会社やと思ってなかった…」とテンションが下がって、会社側も「ええ…お前もっと頑張るって言うてたやんか…」となっていく。
でも、ベクトルが下がることのメリットは何もありません。最初の期待値が低い状態でも、入ってから「意外にええやん…」とベクトルが上がっていくほうが、その後の伸びしろにつながります。
一番幸せな採用のマッチングって、何でしょう?
僕が考える1つは、「ウチ大したこと無い」という会社と「ボク大したこと無い」という人の出会いを、「それでもええやん」って言い合える出会いだと思うんです。
一度カッコつけると、どんどんカッコつけ合って、嘘ついて騙し合って、入ってから「騙された…」となります。むしろ「ボク大したこと無い」って言う人は、本当は頑張る気も、成長しようって意欲もあります。見ていて、そう感じます。
企業側が必要以上に期待値を上げると、「クレクレ」さんという、ぶら下がり社員みたいな人が逆に増えてくるんです。「そんな良い会社やったら働きたい」というのは、「自分が何とかしたい」よりも「ええ条件に乗っかりたい」ってことでもあるので。全てを良いように言うのが、必ずしも上手くいくとは限りません。
大切なのは、「満足度の絶対値」よりも「満足度のベクトル」。あえて大変なことも含めて伝えていただいて、その中でベクトルを上げていく魅力づけをいかにするかが、ポイントになると思っています。
(おわりに──第0回『しがと、じんじ。』のようす)
(第0回『しがと、じんじ。』で使用したワークシート)
ご参加、誠にありがとうございました。
※『しがと、じんじ。』コミュニティに興味を持たれた方は、こちらのフォームからお気軽に問い合わせください。活動情報などをお送りします。
(編集:佐々木将史)
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