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ワープロの商品企画(1) − オンリーワンの表現

 ザウルスの話で、本質を考える、宣言をする、システム的に発想するみたいな話をさせていただきました。そして、ワープロの書院の話では、ビジネスの要素、みたいな話をさせていただきます。

 本質を考える、宣言をする、システム的に発想する、というのはビジネスやプロジェクトの立ち上げとか起業には適した話ですが、ビジネスを安定させるというフェーズにはそれ以外の要素も入って来ます。

 若い方はご存知ないかも知れませんが、少し前までは日本語ワードプロセッサー=日本語ワープロという商品がありました。今でいうならパソコンのワードだけを独立させた専用機です。このワープロがかなり売れていました。液晶テレビが爆発的に売れる前はシャープの中でも稼ぎ頭になっていた程です。

 ちなみにシャープの日本語ワープロ「書院」といえば、ワープロが世に出た時から存在し、パソコンの普及で日本語ワープロという商品が終わるまで、ずっとシェアトップを維持していた伝説のブランドです。

 私は企画をやっていたといっても、ザウルスの通信システムのように自分でやったという感じではなく、一員としてその成功に携わったという感じだったのですが、その成功の中で何が必要だったのか、何が要因だったのかは、肌感覚として分かる部分があります。

 私の上司で当時部長だった安田惠有さんという方がおられます。企画マンとして書院だけでなく、ファックスもトップシェアに導いた方で私の大恩人です。非常に温厚な方で、私は安田さんが起こったのを一度しか見たことがありません。その方が電話で相手の方に怒った時に私もいたのですが、電話を切った後で「トップになった人間にしか、トップになる方法は分からない」と独り言的に呟いたことが印象的でした。

 トップになることが全てではなく、オンリーワンでも良いのですが、それを成し遂げるには、何かセオリーみたいなものがあります。そして、それはその場を経験した者にしか分かりません。そして、幸い私は幸運にもその機会に恵まれました。ザウルスの場合とは違い私がやった訳ではないのですが、トップとかオンリーワンになるセオリーというものについて、少し話をさせていただきたいと思います。

 書院は、日本語ワープロの本質である「美しい文章を作る」ということにずっとこだわって来ました。そして他社が24ドットの時には32ドット印刷をとか、他社に先駆けて拡大文字を綺麗に印刷出来るベクトルフォントを、とその本質の部分では常に他社に先を行っていました。しかも、その先に行っている部分については、誰でも簡単に分かるような表現をする、というのが多分、とても大切だったのではないかと思います。

ビジネスの基本(6):本質で差別化して分かりやすく表現する

 この本質で差別化する、というのが一つのポイントです。本質以外で差別化しても、実はあまり意味がありません。

 シャープの創業者である早川徳次さんの言葉に「人に真似される商品を作れ」という言葉があります。私も若い頃は単純に、他人に真似されるような独創的な商品を作れという意味で理解していたのですが、後でこの話のもう一つの意味を理解できました。

 いかに独創的な商品や技術であっても、人が真似もしないような商品は市場が無いのです。先程の話でいうと、本質を外した独創性には意味がありません。変わった商品とか、変わったサービス、という話で終わってしまいます。

 ですから、本質を押さえること、その本質の中で独創的であること、その2つを兼ね備えないと「他人に真似される商品」にはならないのです。そういう意味で、本質を外さないということは、とても大切です。

 同時に、本質を押えて独創的であっても、他人に理解されなければ意味がありません。他人に分かりやすい表現が必須になります。24ドットとか32ドット、64ドットみたいな表現は、数字なので一目瞭然です。逆にいうと技術開発とか商品開発の段階で、一目瞭然の差別化が出来ることを前提にする必要があります。

 一時期、書院の宣伝で「の」という文字の巨大な拡大文字を使っていたことがあります。ベクトルフォントという、文字を大きく拡大しても綺麗に印刷できる技術の宣伝だったのですが、曲線がギザギザにならず綺麗に印刷されているのが、これも一目瞭然でした。

 もちろん、こういう表現ができるものは少ないかも知れませんが、ワンワード、ワンフレーズに落とし込むということは大切です。これは仕事の話では無いのですが、昔、ある警備会社の社長と雑談をしたことがあり、その時ネーミングのアイデアを伝えたことがあります。その会社では、夜の仕事の女性を警備マンがエスコートするというサービスを始めるということで、そのサービスに「シンデレラ・サービス」と名前をつけたらどうですかと雑談の中で提案させていただいたのですが、半年後関西の深夜番組にその社長が出て「シンデレラ・サービス」という名前でそのサービスの話をされていました。

 テレビを見ている時に雑談の時に一緒にいた友人から「あれは金子さんのアイデアですよね」と電話がかかって来て「まあ成功すれば良いのではない」と返答しておいたのですが、このように本質の差別化のポイントを、ワンワードとかワンセンテンスで表現することは、どのような商品であれ、どのようなサービスであれ、とても大事なことなのです。

 もともと、人は他人の話をほとんど聞いていないので、ワンワードとかワンセンテンスに落とし込むのはとても大切なのですが、インターネットが普及し、世の中に情報が氾濫すればするほど、表現を絞り込んで、短い言葉、簡単なビジュアル、シンプルで短い動画といったそういう要素が重要になって来ていると考えます。

 この話は、逆にいえば不要な要素はなるべく外した方が良いという話になります。ある方が言われていましたが、多く存在している商品の一つに絞り込み、その一つの商品説明だけを徹底的にやって、小さい企業が大手企業を向こうに回してシェアの3割を取ったそうです。

 多分、商品とかメニューとか訴求内容のいらないものを外すということも大切なのでしょう。これは多くの方が語っている内容ですが、色々なことを出来ることよりも、これ一つしか出来ない人が成功するという一因には、こういうことがあると思います。

 ちなみに、私自身は「人類の課題も含めて、あらゆる課題にソリューションを提供する」ということをやっていて、本人的には一つのことしかしていないつもりなのですが、ビジネスの話をしたり、健康の話をしたり、霊的な話をしたりと、表現の手段がバラバラに見えるので、その表現の面では課題があったりします。

ビジネスの基本(7):表現は徹底的に絞り込む

 ワープロの書院も、入力も素晴らしかったし、編集も印刷も素晴らしかったですが、表現する時は徹底的に絞り込んでいました。印刷の場合は、例えば拡大文字だったり、入力の表現であれば「暑い」と「厚い」を自動判別するソフトだったり。カタログには一応全ての機能を書いていましたが、表現が徹底的に絞られていたと思います。

 そしてそれが、ずっとトップシェアを維持出来た秘訣の一つだと思います。ビジネスを安定化させる、シェアを拡大したり、トップシェアを維持するには、本質で差別化するだけでなく、それを徹底的に絞り込んで表現することが大切な要素ですが、それはお客様に伝えるという意味だけでなく、販売してくれる人、開発してくれる人、関係者全てにシンプルにメッセージを伝えるという意味で、とても大事な話です。


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