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わかったようなことを言うなという話

地元に私が子供の頃から営業している小さなスーパーがある。
いや、あった。

子供の頃以来、数十年ぶりに見かけて「まだあるんだ」と思い、それから準顧客くらいの距離感のユーザーではあったが、なんというか時間が止まったようだった。

正確にいうと時間は止まらないので、当時のまま30年ほど時が流れているため風化し劣化し、とにかくあらゆる部分がボロい。
外装に貼られた店名の文字も剥がれて雨よけの屋根の上に落ちていた。
落ちたまま何年も放置されていた。いや、せめて片付けてくれ、手が届く高さだぞ。物悲しいじゃないか、と外野ながらに思っていた。

わかりやすく言おうとすれば、昭和のよろずやのような風貌というか。
いや、出来た頃はギリ平成に入ってたかもしれないけど。

それにしても、外装も内装も、什器も、床も天井も、本当に当時のままなんじゃないかと思わされる状況で、営業していた。まあお世辞にも小綺麗とは言い難い。
小さい個人商店くらいのサイズ感で、こぢんまりしている。でもいつもお客さんはそれなりにいた。

すぐ隣に大型ドラッグストアが出来たり、近くではないけれど商圏に大型スーパーも出店した。競争は厳しいだろうなとは思っていたけれど、それでも淡々と続いていた。

そんな店が、いよいよ閉店の日を迎えた。
大々的に閉店セールが行われ、最終日はたくさんの人が集まったそうだ。
そりゃそうである。
この30年の間、子供が生まれ育ち、その子供がまた家庭を持ち、二世帯住宅が建ち、孫が生まれ、三世代がここの食材でご飯を食べ、健やかな日々を過ごしてきたわけだ。
まさに地域の台所だった。

最期は近隣住民の涙で見送られた店。
そして静寂が訪れた。

と、思いきや、近隣住民の涙も乾かないうちに、外装工事が着工した。

『おや?どうやら何かできるぞ。』

一気に色めき立つ近隣住民。人の感情はとても儚い。


そんな折、たまたま目にしたスレッズに
『〇〇の跡地に××が出店する模様。居抜きで出して楽だね〜』
という冷笑を含んだような投稿があった。

〇〇とは、あの店のことである。
××とは多店舗展開しているスーパーである。

あの店の跡地に××ができることは私も知っていた。
なにしろ××の関係者が〇〇が閉店した直後から内装業者などを引き連れ度々内見しているところから観察していたからだ。

基本的に誰が何を言おうと知ったこっちゃないのだが『この人は何もわかっちゃいないな』と残念に思った。

××は当地でかなり勢いのある企業である。ここ10年ほどは新規業態出店や飲食店など事業展開が成功して今一番勢いがあると言っても過言ではない。

そんな勢いもカネもいくらでもあるであろう企業が、あの廃墟(言い過ぎ)を居抜きで使うわけがない。

少なくとも一度でも晩年の〇〇に足を踏み入れたことがあるのなら、あんなもん(言い過ぎ)が居抜きで使えないことは素人目にも明らかだからだ。

市場価値の高まっている今、あの廃墟(言い過ぎ)に看板なんか掛けたら、ただただ××のブランドを損なうだけである。

だがこの超絶ローカルすぎる情報を知っているのだから、スレッズの主はさほど遠くないところに居住しているはずである。だけど、おそらく、通勤などで店の前の道を通っていて、時々信号待ちなどで目にするくらいの人なんだろう、という予測を立てた。なぜならユーザーならあれが廃墟(言い過ぎ)であることを知っているからだ。

廃墟廃墟と連発しているが、これはマジで郷愁ゆえであることは言っておきたい。私が子供の頃100円200円を握りしめておかしを買いに行ったスーパーだ。懐かしくないわけがない。情がないわけがない。なんなら数十年ぶりに店に足を踏み入れた日は『今日まで改装しないでいてくれてありがとう!!』と思ったくらいだ。

だからなおさら、ロクに知らないであろう外野が、誰をサゲたいのかただの感想なのか知らんけど(文脈的には××のアンチの可能性はある)、わかったようなことを言うな、と言いたくなった。

地域出身者にとって懐かしの○○は到底居抜きで使えないような廃墟(言い過ぎ)だし!××は確かに事業展開派手にやっとんな〜って感じはするけどいいじゃん、勢いがあるってことはいいことじゃん!どんどん景気良くしてくれよ、雇用もどんどん創出してくれよって思う。


ところで私は、これを目にしたスレッズというプラットフォームは利用しておらず、インスタのフィードに流れてくるところからうっかり飛んで見てしまうことはあるけど、なぜか後味が悪い感覚になることが多い。リテラシーの低さがtwitter(X)を超えているのでは…と思うことが多々ある。見なきゃいいんだけど。

そこで、

『スレッズってなんか民度低くね??Xの方がまだマシ』
と思わず言いそうになった。
ブーメランである。

きっとスレッズも、スレッズ界隈に住んで暮らしている人たちには有益で欠かせない大事な場所である。まだ郷愁を感じるほど出来てから長くはないプラットフォームだが、大切にしている人もいるはずである。少なくとも手塩をかけて作った開発者はいるわけし、愛用している人もいる。ロクに知らない私が難癖をつけていいものじゃない。

これこそ、『わかったようなことを言うな』だった。


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shiri
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