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「それでも生きなくちゃ」(番外編2)
1月、冬休みの間に、アタシは1人新幹線に乗っていた。
「縁結び」で有名なお寺を目指して……
特定の誰かとの縁を願ってはいけないことを知りながら、アタシは君との縁とアタシのお腹にいるのかどうかもまだ、わからない君との子供の縁を願った。
叶うはずがなかった。
欲張り過ぎている事も理解していた。
だけど、その時のアタシは、君と、君とアタシの子供との、3人の未来を願っていた。
そのお寺の御守りを3つ買った。
1つはアタシ。
1つは出産を控えた姪っ子。
そして、肩の手術後、リハビリで入院しているおかーさん。
その時はまだ、あの秘密を打ち明けていなかったからアタシは、おかーさんに少しの優しさがあった。
アタシをこの世に産み落とした人。
そして、アタシの忌まわしい記憶の加害者を産み落とした人。
あの秘密を打ち明けてから、この人に対して、憎しみしか持つ事が出来なくなっても……
アタシ達の家族はアタシによって、バラバラに壊された事になっている。
全てを話した「姉」でさえも、アタシからの電話にもでず、手紙を書いても、返事ひとつ寄越しはしなかった。
同じオンナでありながら……
姉は姉で、今ある自分の「家族」とだけの平穏な生活を選んだのだ。
まぁ、それは当たり前のことかもしれない。元々、義兄には、嫌われていた。
姉とは真逆の見た目、行動、何度も自殺未遂を繰り返す様なオンナを義理でも、妹とは思いたくはないだろうし、関わりたくないのは当たり前の事だから……
本当の被害者はアタシなのに……
誰にも言わず、あの忌まわしい出来事を、アタシは墓場まで持って行けばよかったのだろうか?
アタシが自分を偽ったまま、死ぬまで、1人で、この秘密を胸に秘めたまま生きていけば良かったのだろうか……
未だ、答えは出ない。
壊れてしまった家族は、もう、元には戻らないし、アタシはアタシの人生をやり直したかった。
君と出会って、アタシは初めて、あの秘密を主治医に話したんだ。
今までのアタシの精神疾患の、原因が何処から来ているのか、主治医はわからないまま、アタシのカウンセリングと治療を続けていた。
アタシの告白によって、主治医は全ての点が1本の線で繋がったと、アタシに言った。
アタシが作り出したいくつもの人格。
それらは、全て、アタシが生きていくうえで、必要な人格達だった。
そして、初めてあの忌まわしい記憶を自分の口で、言葉として発した頃、アタシにも、ほかの人格にも制御しきれない、激しい「怒り」の人格「りりこ」の暴走が始まった。
統括人格の「夜」でさえも、「りりこ」を抑え込む事が難しかった。
記憶にない、荒れた部屋、食器をいくつも、壁や床に投げつけたのだろうか?
壊れた食器の破片をぼんやりと見つめながら、アタシはまた、記憶にない、左手首の傷跡も見つけた。
「りりこ」はいつか、アタシを殺してしまうかもしれない。
通販サイトから、届いた品物を見てアタシは確信した。
アタシが頼んだ記憶のない、白いロープ。
「りりこ」が向ける怒りの矛先は、アタシを傷つけた周りの人間だけではなく、いつまでも、うだうだと自分を愛せないまま生きている、アタシにも、向けられていた……
今まで、ODやリストカットしかした事がなかったアタシに「りりこ」は、中途半端な事ばかりしてるんぢゃないよ!とでも言いたかったのだろうか?
アタシは、その後、2回首吊りを試して、2回とも失敗した。
そして、夏の発表会で、初めて歌う予定にしていた課題曲、さめざめさんの「なんて馬鹿な両思い」を歌う前に、近所の商業施設の2階の駐車場から、飛び降りる為に何時間も、ぼんやりと1人で駐車場から下に広がる景色を見つめていた。
美容室の帰りだった。
発表会で着る新しい衣装を身につけ、発表会で、セットしてもらう髪型を決めて、本番前にセットしてもらい、本番を数日後に控えていたのに、アタシは何故か、その日死んでしまおうと思っていたんだ。
そしてサオリさんに、DMを送って、お別れしようと思ったんだ。
アタシがその日、飛び降りる事をせず、発表会で、リハなしで「なんて馬鹿な両思い」をミスる事無く歌い終えて、今もまた、次の発表会の課題曲、「恋人みたいに」のレッスンに通っているのは、アタシのDMに、サオリさんから、DMが返ってきたからだ。
あの日、アタシの命を繋いだのは、君ぢゃなくて、まだ、お会いした事もない、LIVEに参加したこともない、さめざめさん。「笛田サオリ」さんからのDMを読んで、アタシは、今も、前に進む為に、生きている。
アタシには、アタシの神様がいる。
その事に気がついたのは、2024年2月12日、下北沢440で開催された、さめざめ15th記念アコースティックLIVEに参加したあの時だ。
アタシは、今までにない感動と忘れられない時間を過ごした。
その日まで、まだ色々と、アタシの人生を大きく変えていく出会いがあるのだけれど……