【ハーブ天然ものがたり】ぺんぺん草とタネツケバナ
七草なずな、ぺんぺん草
七草の「なずな」は、成長すると別名ぺんぺん草の名で呼ばれるようになります。
「ぺんぺん」は三味線の音色を擬音化したもので、しゃみせんぐさとか、ばちぐさ(撥草)と呼ばれることもあり、花の下に付いている果実(一見葉っぱに見える)の形が、三味線の撥に似ていることから名づけられました。
はじめは緑で葉のように見えるハート形の実は、時間とともに茶色く、かたく膨らんでゆき種を宿します。
茎が伸びるごとに、下から上へと順に開花するので、先に開花して散ったあとに葉のようにみえる実が連なります。
アブラナ科ナズナ属の越年草で、早春に開花して夏には枯れることから夏無き菜 ⇒ 夏無という説と、撫でたいほど小さく可愛い花(菜)から、撫で菜 ⇒ なずなに転訛した説があります。
日本に渡来したのは農耕が開始されるまえの、史前帰化植物と考えられており、田畑でも荒れ地でも、道端や空き地など場所を選ばずに生息し、どこにでもたくましく繁殖するさまからビンボウグサという、ビミョ...な名前もつけられてしまいました。
「ぺんぺん草が生える」という慣用句は、なずなが荒廃した土壌でも生育するので、荒れ果てた土地の様子をあらわすときに使われるようになり、手入れのされていないお庭の気配とぺんぺん草が結びついてしまったのがはじまりと思われます。
逆に「ぺんぺん草も生えない」は、なずなさえも生育できないほどひどく荒廃した土地を表し、あるいはなんにも残らない状態を揶揄した表現で「○○が通った後はぺんぺん草も生えない」と言ったりします。
学名 Capsella bursa-pastoris(カプセラ・ブルサパストリス)の bursa-pastoris は羊飼いの財布という意味で、ハート型の実のかたちを財布に見立ててその名がつきました。
むかし羊飼いは家に帰ると財布を家のもの(妻や母親)に預ける風習があったそうで「あなたを信用して全て差し上げます」という意味を含んだ呼称となっているそうです。
なんというかゼロか100かみたいな、究極な印象を醸すぺんぺん草は、荒れた土地の代表選手みたいになってしまいましたが、なずなの若葉に含まれるミネラルには鉄分やマンガンが多く、常食すれば補血に役立つものと考えられてきました。
開花期の全草を引き抜いて天日乾燥すると、薺、あるいは薺菜という生薬になります。
日本の民間伝承医薬では全草を陰干しして煎じたものを、熱さましや胃腸を整えるため、止血や月経不順、むくみや利尿作用によいとして活用してきました。
煎じ液を冷ましたもので、目の充血や痛みがあるときに目を洗う方法も伝承されています。
七草なずなの近縁種
アブラナ科のナズナ/ぺんぺん草と同じような姿形をしている
グンバイナズナ(ヨーロッパ原産)や
マメグンバイナズナ(北アメリカ原産)も
日本に帰化している野草たちです。
葉のようにみえる実は三味線のバチではなく、軍配に見えることからその名がつきました。
同じアブラナ科のグンバイナズナ存在を知ってしまうと、七草なずなの可愛らしさや、ぺんぺん草をビンボウグサと揶揄してきた日本人の感性からはほど遠い、滋養強壮、活力増強、ザ・パワー!のなずな像が想起されます。
なんといっても強壮作用で名高い南米ペルーのマカも、アブラナ科マメグンバイナズナ属の一員です。
三味線のバチが軍配に変わるだけでも、かなりイメージは変容します。
アブラナ科のハーブ・野菜は、ダイコン、カラシ、ワサビなど、独特のツンと香る野菜や香菜から、菜の花、ルッコラ、クレソン、キャベツに水菜、カブに小松菜、チンゲンサイ、ブロッコリーにハクサイまで、まいにちなにかしら口に入れていそうな食材のオンパレードです。
アブラナ科には大変お世話になっている現代人のひとりとして、わたしも半分くらいはアブラナ科成分でできているといっても過言ではないくらい、毎日毎食、食べているように思います。
とくにキャベツ、小松菜、ブロッコリー、大根は常備菜で、冷蔵庫に切らすことはないくらいお世話になっています。
9つの薬草のひとつミチタネツケバナ
アブラナ科にはほかにも、タネツケバナ属が控えています。
北欧神話を出自とする「9つの薬草の呪文」のひとつにミチタネツケバナがあり、日本の野草としてはタネツケバナの方が有名です。
タネツケバナ(種漬花、Cardamine scutata)は、比較的あたたかい地域の北半球に自生し、日本では水田などの水辺に群生する野草です。
半分くらい水につかっているものも見かけますが、小さい頃のタネツケバナは、きれいに育っているとクレソンに見えなくもないです。
七草は摘むというより買うというのが現代版ライフスタイルですが、七草なずなとタネツケバナは若菜のころよく似ているので、けっこうな頻度でタネツケバナが「なずな」と称して七草セットに入っていることもあるそうです。
ウィキ情報と流通のおしごとをしている友人から聞いた噂話なので、ほんとうかどうかはわかりませんが、そうだとしてもあんまり不思議ではないなぁと思います。
若菜のタネツケバナも、もちろん食べられますし、とくに美味しいと評判なのはオオバタネツケバナ Cardamine regelianaという種で、日本の市場にも流通し、お刺身のつまに出てくることもあるようなので、居酒屋などで気づかないうちにけっこう食べているかもしれません。
オオバタネツケバナは四国産のものがテイレギと呼ばれ栽培、出荷されています。
タネツケバナの仲間はみんなにているので、分類するものたいへんそうですが、帰化したミチタネツケバナも含めて、日本全国各地に自生しつつ環境にあわせてちょっとづつ、芳香や葉のカタチや、開花時期など変化し続けているのだと思います。
ミチタネツケバナは北欧神話が色濃くのこる医学書「九つの薬草の呪文」のひとつ、スチューン(Stune)のことであろうと解釈されています。
過去記事でご紹介してまいりました「9つの薬草」記事は、
・よもぎ-マッグウィルト(Mucgwyrt)
【ハーブ天然ものがたり】よもぎ (キク科)
・カッコウソウ-アトルラーゼ(Attorlaðe、またはベトニー)
【ハーブ天然ものがたり】パチュリ (シソ科)
・オオバコ-ウァイブラード(Wegbrade、オオバコ属)
【ハーブ天然ものがたり】オオバコ (オオバコ科)
・カモミール-マイズ(Mægðe、またはカミツレモドキ)
【ハーブ天然ものがたり】カモミール (キク科)
・いらくさ-スティゼ(Stiðe、イラクサ属)
【ハーブ天然ものがたり】いらくさ/ネトル (イラクサ科)
・タイム-フィレ(Fille)
【ハーブ天然ものがたり】タイム (シソ科)
・フェンネル-フイヌル(Finule)
【ハーブ天然ものがたり】フェンネル (セリ科)
これまでに7つのハーブをご紹介してまいりました。残るふたつは
「林檎-ウェルグル(Wergulu)バラ科リンゴ属」と
「ミチタネツケバナ-スチューン(Stune)アブラナ科タネツケバナ属」です。
9つの薬草は北欧神話が出自ゆえに、ヨーロッパ原産種とされる「ミチタネツケバナ」がそのひとつであると推定されています。
北欧神話のオーディン(ヴォータン)が、蛇的な魔物を打ち払ったときに9つに分かれてハーブとなり、それぞれに薬草の加護をもたらしたという神話がもとになっています。
もとは1なる蛇だったものを9つに分離したのは、オーディンの創造降下の御業と考えているので、9つの聖なるハーブを正しく並べる(あるいは配合する)と、オーディンへのきざはしが架けられるのでは、と妄想しています。
ほんらいの使い方(?)としては、薬草を使用するとき詩を声に出して唱えることで、驚くほど魔術的な効果がある、と伝承されてきました。
呪文を唱えたのち、粉末にした薬草を古い石鹸かリンゴの果汁と混ぜ合わせて、水と灰で練り物をつくり、フェンネルを入れて煮立て、さいごに泡立てた卵と混ぜて軟膏にし、患部に塗る、と説明があります。
いかにも魔女の窯って感じがしますね。
調合する前の薬草とリンゴに向って呪文の歌を三度詠唱することを忘れてはならず、患者の傷口と両耳、患者本人に向って膏薬を塗る前にも呪文を唱えること、と書き記されているそうです。
現在、呪文が収載されている写本は大英博物館に保管されています。
北欧神話、オーディン(ヴォータン)、9つ、とくればユグドラシルを想像せずにはいられません。
9つのハーブが、九つの世界をフラクタルに表現するものだとするなら、ハーブに親しみ精通するうちに、オーディンへのきざはしどころか世界樹へのきざはしが架けられるのでは...と、あいもかわらずの妄想はブレーキ知らずに加速を続けております。
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