Masako73_№18

🇫🇷TEMPURA
AUTOPORTRAITS DE TOKYO

フランスで年4回発行される日本文化を紹介する雑誌“TEMPURA”で連載中のインタビュー記事
“AUTOPORTRAITS DE TOKYO”＝”東京に住む人たちのセルフポートレート”を日本語訳したものをnoteに記録しています。

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TEMPURA_№18 / 2024.7

Masako 73
ÉDITRICE DE DICTIONNAIRES ET MONOGRAPHIES

Photo / Text : Ayaka Shida

千葉県生まれです。
出版社に入社してすぐ、辞典の編集部に配属され、そのあと単行本を担当しました。

初めて作った本は、先天性四肢障害児（生まれつき手や足や指のない子供たち）の作文集です。1984年のことですね。
その後、薬害エイズやダウン症児、ハンセン病患者など、差別される人々をテーマにして本を作ってきました。

いつも企画を立てる時に考えるのは、この本を作る意味が読者にも著者にもあるのかということ。
本を出すことで誰かが少しでも生きやすくなるのかどうか。本としてオープンにすることで当事者は楽になるんです。
こだわってきたことは、必ず本人に書いてもらうこと。本人の言葉は人の心を動かします。
それと、単行本に索引や小さな辞典を付けること。たとえば、抗がん剤の副作用についてまとめた本には、医者が抗がん剤と言わずに処方した薬を調べられるように、その薬の名前や色をまとめたミニ辞典を添付しました。
辞典はいわば私のルーツです。

そして、1番大きなこだわりは実名ノンフィクションであるということ。
実名であることは読者にとってすごく大きいことです。仮名だと、それが本当のことかわからないし、責任もない。
でも、今まで一度だけ実名を使わなかったことがあります。
それは、薬害エイズ訴訟(※)事件の原告団60家族の手紙をまとめた『薬害エイズ原告からの手紙(1995)』
当時の薬害エイズへの差別は今まで扱ってきたどのテーマの差別よりもひどいものでしたから……。
名前ではなく、原告番号順に載せました。
これは勇気を出した順番。

会社にいる時は異端児だったと思います。
企画会議も毎回大変だった。
たとえば、『誕生死(2002)』は唯一私の企画ではなく著者たちからの持ち込み企画だったのですが、これは死産・流産・新生児死で子供を亡くした母親たちの手記をまとめたもの。
会議に出席していたのは全て男性でしたから、4回も却下されました。
でも、最終的に“タブーにすることが当事者を傷つけている。この会議が世の中の縮図です！”と強い気持ちを伝え、ようやく出版できることに。私の原動力は怒りなのかもしれません。

ひとつの本を編む時は全身全霊ですよ。
ダウン症児を持つ100家族の手記をまとめた『ようこそダウン症の赤ちゃん』を作る時、あるお母さんに『こちら側から見える景色は違うんですよ』と言われました。
お母さんたちは、ダウン症の子を本当にかわいいと言う。私は、最初はそれを信じてないんですよ。だけど、彼らと触れ合ううちにわかってくる。
冷蔵庫の前でにこにこ笑っているんです。中身が食べたいからなんですね。
かわいいから、冷蔵庫を開けてしまう。ズルいんですよね。笑

最新作は『訴歌(2021)』ハンセン病療養所で詠まれた俳句・川柳・短歌作品群をまとめたもの。
会社退職後に辞典と短歌・俳句集を作っている時に、ハンセン病患者が作った作品に出会ったことがきっかけでこの本を作りました。彼らの詠んだ歌が美しくて、心を打たれました。彼らにとって歌は自己表現であり、生きた証。

ハンセン病の女性の歌で素敵なのがあります。川柳の五七五。

「どの花もキスを許してくれました。辻村光子」

唇以外の感性をすべて失った人だと私が気づいたのはずっと「あと」でした。
盲目で、嗅覚も触覚も失ってた、指先もまつ毛も頬も感覚を失って、唇だけ残ったんですね。
唇で触れることで、どの花か区別できた喜びを一杯にひろげて歌ってます。

本は最終形態じゃないんです。あくまでも”途中”のこと。
「その本を読んだ人の見る世界が変わること」
そこまでできないと本とは言えないんです。

(※)薬害エイズ訴訟

　厚生省が承認した非加熱血液製剤にＨＩＶが混入していたことにより、主に１９８２年から８５年にかけて、これを治療に使った血友病患者の３割、約１４００人もがＨＩＶに感染しました。被害者はいわれなき偏見により差別を受け社会から排除され、さらに感染告知が遅れ、発病予防の治療を受けなかったことに加え、二次・三次感染の悲劇も生まれました。
こうした状況の中、被害患者とその遺族は１９８９年東京と大阪の地方裁判所に、非加熱製剤の危険性を認識しながらも、それを認可・販売した厚生省と製薬企業５社を被告とする損害賠償訴訟を起こしました。

社会福祉法人 はばたき福士事業団 / https://www.habatakifukushi.jp/record/aids/

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ここから編集後記🐈‍⬛
インタビューに至った経緯や私個人の意見を書いてます。
編集後記と言いながら、ほとんど私の日記みたいになってて公開するのがなんとなく恥ずかしいから
最新号・公開した方がいいなと思うもの以外は最低金額で有料設定にしてます🙃

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10回目。

編集者のまさこさんです。

このインタビューでまさこさんは3時間喋り倒し喫茶店の営業時間を大幅に超えて（喫茶店のママさんのご厚意🙏）居座ったあと、
じゃあ飲みにいきましょうか🍺とそこでもずっと喋りっぱなしでした🥰
しかも表に出せない話ばっかりするから、
この記事には、話した内容の1/10くらいしか載ってないと思います🤔

「昔ね、海外で「ひとつどう？」と勧められたのがコカインで、断ると、ふーん。と言って優雅な所作でそれに火をつけてね、うっとりした顔で私に微笑みながら吸うの。そのけむりの香りがもう今まで嗅いだことのない、言葉にはできないほどかぐわしい良い香りで・・・それを目の前で味わっている姿を見せられるのよ〜最高のPRよね〜」
とかね😇出せないんですよ😇


ま「私の信念になってる言葉があるの、この言葉は私の仕事のすべてになってます」
私「なんですか？」
ま「……なんだったかな？」


私のすべてって言ってるのに忘れてる😇
（結局思い出して話してくれたので、締めのところに使わせてもらいました）

ずっとこんな調子で、楽しかったです。



まさこさん本人はこういうふうに、とっても楽しい人です。
だけど、差別される立場の人々の声をいくつも本にしてきた彼女のお話は
正直なところ、私にとって聞くに耐えないものばかりでした。

それから、今までまさこさんが手がけてきた本を持ってきてくださったのですが、
どの本も読むのが辛くて、本当に申し訳ないのですが全部読めませんでした。
差別がなくなることを願っているはずなのに、実態を目の当たりにすると怖かった。自分が情けなかったです……

特に薬害エイズの本はぱらっとめくって目に入った一文だけで鳥肌が立ちました。
それは幼い頃からその方を治療してきた医者に向けられた言葉で（※参照）もちろん私に向けられた言葉ではないです。
手書きではないし、何年も前に印刷された文字のはずなのに
その言葉を放った時の恨み・悲しみ・怒りが全部こっちに向かってくる感じがしました。
まさこさんが話してくれた被害者のエピソードも、
差別というものがここまで人を人の道から外れさせてしまうものかと驚くものばかりでした。どこにも書けない。

いつも企画を立てる時に考えるのは、この本を作る意味が、読者にも著者にもあるのかということ。本を出すことで誰かが少しでも生きやすくなるのかどうか。本としてオープンにすることで当事者は楽になるんです。
こだわってきたことは、必ず本人に書いてもらうこと。本人の言葉は人の心を動かします。

辛くならないんですか？なぜそんなことするんですか？と聞いたら、
もちろんたくさん泣きますよとおっしゃいました。
でも、この思いがあるからやる意味があると。

13年前、私は同じ質問を別の方にしたことがあります。
その方は東北地方へのボランティアに行く時に、救援物資と一緒に私を乗せてくれた長距離トラックの運転手さんです。
「災害が起きたらトラックでどこでも行く」と話す彼にこの質問をしました。
「わかんないけど、命の使い方って書いて使命なんだよ。自分がそういう時間の使い方をしたいと思うことが使命だと思ってるよ」と答えてくれました。

私にとってはどちらの言葉も答えになってないんだけど🥹
たぶん、ふたりにとっては当たり前の何かがあって、それは今の私にはまだ見えないんだと思います。
まだまだがんばらないといけないな……😢📷情けない〜

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まさこさんには敵わないと思うことはまだまだたくさんあって、
その全部が素敵で紹介したいから長くなっちゃう😇

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この文章をまとめる際、ファクトチェックをお願いしたら、さすが編集者らしく
ここをこうしてみたら？と提案してくれました。
この部分です。

ハンセン病の女性の歌で素敵なのがあります。川柳の五七五。

「どの花もキスを許してくれました。辻村光子」

唇以外の感性をすべて失った人だと私が気づいたのはずっと「あと」でした。
盲目で、嗅覚も触覚も失ってた、指先もまつ毛も頬も感覚を失って、唇だけ残ったんですね。
唇で触れることで、どの花か区別できた喜びを一杯にひろげて歌ってます。

ここだけ文章の鮮やかさが違うのですぐにわかると思いますが🙃
最初ここでは、いちばん好きだとおっしゃったこの一句を紹介していただけでした。
この川柳がすばらしいことはもちろんわかるけど、この記事は川柳を詠んだ方ではなくてまさこさんのインタビューだし、文字数も足りなくなっちゃうから、さらっと説明すればいいかなと思っていた部分だったんです。

でも、まさこさんが『訴歌(2021)』を作った経緯を

〜『訴歌(2021)』ハンセン病療養所で詠まれた俳句・川柳・短歌作品群をまとめたもの。会社退職後に辞典と短歌・俳句集を作っている時に、ハンセン病患者が作った作品に出会ったことがきっかけでこの本を作りました。彼らの詠んだ歌が美しくて、心を打たれました。彼らにとって歌は自己表現であり、生きた証。

と話してくださったように、
この句が彼女にとって思い入れの深いことも理解していました。
だから、この川柳の説明を入れたいんだけど〜と言われた時も予想はしていました。
でも、文字数あるから無理だよ〜って心の中では思っていました🐈

こういう流れで、提案してくれたのがあの一節でした。
少しだけ別の部分を調整すれば入るくらいの文字数で、フランス人にも伝わりそうなわかりやすい説明が、こんなにきれいな日本語でまとめられてきたんです。
読んだ瞬間に切なさでいっぱいになって、泣きそうになりました。
これを入れない理由がなかったし、文章力・日本語力・人間力といったあらゆるまさこパワーに圧倒された瞬間でした🥹
記事はフランス語になってしまうから、まさこさんの言葉の美しさをここで残せてよかった。

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余談ですが、私の好きな作家で葉室頼昭さんという方がいます。
2009年に亡くなっていますが、2008年まで春日大社で宮司をされていて、前職は医師です。
神道や日本についてわかりやすく教えてくれる本をたくさん書かれています。

彼の本の中に、女性の美しさについて書かれた部分があります。
昔の日本では、うつくしいという漢字は『徳しい』と書かれていたのだそうです。
徳を積むことで女性は徳しくなっていく。だから、年を重ねることはうつくしさを失うことではなく、むしろますますうつくしくなっていくことなんですって😇

私はこの考え方を知ってから年を重ねることが楽しくなったし、未来の自分に恥じない生き方をしたいと思うようになりました。
そして、まさこさんを見ているとまさに徳しい方だなぁと思うのです。

葉室さんの本はちょっと偏ってると感じることもあるかもしれないけど、読むと日本人として大切なことを思い出す感じがするからおすすめです！

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まさこさんは麻雀が好きで、この前、熱海の麻雀ツアーに参加して楽しかったとメールが来てました。こんなたわい無いメールですら文章がきれいで、読むだけでいい気持ちになります😌
要約すると「温泉の合間にしぬほど麻雀やってきたわい」っていうおっさんみたいな報告なのにな、なんかだまされてる気分〜😇笑

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