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定年教師の独り言 Vol.21 「原点回帰」
この景色が自分を呼んでいる
教師を辞めて、まもなく2年が経つ。週4日の職を得て、年金支給まで何とか食い繋ぐ毎日ではあるが、「その後」の準備もそろそろ始めておかなければならない。
海の側に暮らしたい
ぼんやりと考えていた事がある。30代の頃からだ。
転勤で、海沿いの街と小さな離島に勤務した。37年間のうちの11年。およそ3分の1だ。朽ちる寸前の職員住宅は同僚には頗る評判が悪く、そこに住むことを随分と不思議がられた。でも、自分にとっては、海を眺めながら暮らせることは心地良かった。おそらく、幼少時の記憶が関係している。
6歳まで暮らした土地がある。今では考えられないが藁葺きで、二間に6人暮らした。雨漏りも隙間風も酷かったが、少しだけ高い土地から見える小さな海が、子供心に大好きだった。父が小都市に家を構えたのでしばらくは足が遠のいたが、自分の運転でドライブできるようになると、小一時間かけて時々訪れていた。
家は解体され土地はすっかり荒れていた。背の高い雑草に侵食された石段を慎重に登ると、あの日見た、小さな海が変わらずそこに在る。それだけで心が躍った。
転勤で住んだ町に土地を買うことも考えたが、妻から色良い返事はもらえない。そりゃそうだ。買い物は?病院は?子育ては?現実として、夫のノスタルジーに付き合っている暇はない。結局両親の土地に二世帯住宅を構えて、県内随一の利便性に満ちた小都市で、子育てをした。
退職するや父が亡くなり、相続の過程で、かの土地を引き継ぐことになった。50年以上放置されていたところだ。法面は崩れ、荒れ方にも拍車がかかっている。母は、手を入れるにもお金がかかるから放っておけという。しかし、改めて登ってみると、変わらずに迎えてくれる小さな海。脳の奥の奥の方から蘇る、居心地の良い原風景。
決めた
家を…というわけにはいかないが、この土地を活かしたことを始めよう。
まずは、雑草まみれの土地を整地し、足を踏み入れられるくらいにはしよう。せっかく小型建設機械が動かせるのだから、自分でできることは自分でやろう。
整地できたら、キャンプをしよう。デイキャンプに行くあの海も素敵だけど、自分の土地にテントを張って、時間を忘れて過ごそう。
ゆくゆくは、この土地にアトリエを作ろう。木工や革細工を趣味としている自分にとって、願ってもない空間になるはず。趣味を活かしてDIYなんてできたら、もう最高!
これって所謂「終活」ってやつか?
人生の終盤に、自分の生まれた土地に還る。これぞ原点回帰。年金を得るまでの残り時間、スケジュールは埋まった。
顛末は随時、ここ「note」で発信します。