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オチャヅケノモト

小学生の時だったと思う。何かの理由で目の前に白米とお茶があったのだ。どういう状況だったんだろう、僕はそれを見て、「お茶漬けにできるじゃん」といった。すると、他にいた四名ほどの同級生が一斉に私に振り向く。しゃべるカエルをみたような目だった。4人で最も冷酷な女子が口を開く「いや、お茶をかけてもお茶漬けにはなんないでしょ」

 お茶漬けとは、ご飯をお茶に漬けたものだと信じていた。だから、目の前のご飯に、目の前のお茶をかけたらお茶漬けになると思っていた。しかし、そうではないらしい。その頃の僕はいたいけだったので、自分が間違っていたのだと信じた。メロンパンにメロンが入っていないように、たぶん、お茶漬けにお茶は入っていないんだろうと思った。

 そして今、24歳になって思うことがある。え、やっぱりお茶だよね。ご飯にお茶をかけたらお茶漬けだよね? ググってもそう出てくる。僕とGoogleだけがお茶漬けを勘違いしている世界なのか。そんなわけはない。やっぱりお茶漬けは平安時代からお茶とお米だ。

 なんとなく、彼女たちの気持ちが分かった気がした。きっとあの時、他の4人にとってお茶漬けはオチャヅケだったのだろう。ナガタニエンのオチャヅケノモトにオユをかけると出来上がるのだ。記号としての言葉だったのだろう。僕は漢字で「お茶に漬ける」と書くことを知っていたから、お茶をかけたのだと思っていた。

でも、4対1になったあの瞬間、僕は明らかに間違いのほうに立たされていた。あの時の冷酷で残酷なユウカちゃんの目を、三日に一度は思い出す。

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