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夢の後始末

「待ってよ〜」と言いながら、一人で帰る僕を追いかけてきたヒナちゃんに、子供が生まれた。

「お前には勝てねぇわ」と、僕の答案と比べて呟いたフミヤは、先日の同窓会の写真の真ん中にいた。

「一緒に走ろうぜ」と言っていたタカフミは、一昨年の冬に駅のホームから身を投げた。

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私は今、鄙びた地方都市で、一人暮らししている。それなり有名な会社で、安定した給与を貰い、九時五時で働いている。大きな責任はなく、上司は優しく、誰にでもできる仕事をしている。多くは無いが友人もいる。いくつか恋もした。きっとこれは幸福の部類だと思う。

幸福とは、慢性的な病気である。

人生は思い通りには行かないが、思った通りにはなる。子供の頃から、自分が平凡な人間だと思い続けていた。どうせ何かを成し遂げることは出来ない。それに、責任が怖い。食いっぱぐれるのはもっと怖い。だから、もし僕がいなくなっても社会は回るような、かけがえのある人間になりたいと思っていた。

そして今、思った通り、ぬるま湯のような生活を送っている。

全ての夢が叶った。私は夢を叶えた成功者なのである。安寧な生活。ちょうどいい人生。なのに何故か、何かが足りない。『夢にまで見た生活』をおくっているのに、なぜこんなに空腹なのだろう。

仕事をしながら考える。「あと40年、これが続くぞ」

夏祭りで金魚すくいに憧れた時を思い出す。私は、夢を叶えた後のことを考えていなかった。

家に持ち帰った金魚は、白色灯の下では何故かあまり魅力的ではなく、元気もない。殺す訳にも行かないから最低限の水槽と餌を買って、日に3回、それを規定量ずつ与え続ける。少しずつ可愛く思えなくなって、心の奥で死ぬのを待ち始める。死ぬのを待っているということが、金魚に悟られたら悪いので、目を合わせないように餌を与えながら、ただ、死ぬのを待っているーー。

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