見出し画像

人前でうどんを食べれますか?


東洋水産のマルちゃんがうどんのCMで炎上した。

男女それぞれが赤いきつねと緑のたぬきを食べる内容が別々に公開された。

炎上の発端は男女の描き方の違いだ。

男性と緑のたぬきは残業のお供としてうどんを食べる日常を描いていて、商品が身近な存在であると伝わる一方で、
女性と赤いきつねのCMから想起されるのは商品の美味しさや身近さではなく、多くの女性がかつて現実でされたセクハラである。
麺をすする時や長い食べ物を咥える動作、熱い食べ物を冷ますために息を吹きかける唇の収縮や、邪魔な髪を耳にかける仕草など。
食べるために必要な動作をフェラチオと結びつけて性欲を押し付ける言動をされること。またはそういう見方があると知り、外で食べることが選択肢から外れた経験が想起されるのだ。

それが多くの女性に共通認識としてあったから、個々が楽しむアニメやゲームはともかく、無差別に公開する企業のCMでまでそんな演出をしてくれるなと怒った人が多かった。

女性の何気ない日常に伴う動作や選択肢が、性欲を押し付けられるから辞めざるを得ない事は今までもあり、食べる動作がその様に演出されるならば最悪人前でうどんを食べるのは危険という風土が生まれてしまう。
飛躍していると思われるかもしれないが、性欲を押し付けられることの危険さと、辞めざるを得なかったことの具体例を出してみる。

例えば性犯罪が起こった時、被害者は尊厳とその先の日常の安寧を大きく傷つけられている訳だが、そんな被害者に対するセカンドレイプで「そんな格好しているからだろう」「被害者が加害者を性的に煽ったからだ」は有名な文句だ。
間違った意見だとは思うが、同時に世間に幅を聞かせている認識だとも思う。
そして例えばパイスラッシュ。
ショルダーバッグの紐が胸の間を通っていたら胸を強調しているとの見方からパイスラッシュと呼ばれる。その事を知ってからバッグを斜め掛けにする持ち方を意識的に避けている女性はかなりの数いるだろう。

これら2つが合わさったらどうだろう。ショルダーバッグは片方の肩に縦に掛けるよりも斜めがけの方が落としにくく安定して持てるが、性欲を煽ると性犯罪をされるリスクが高まる上に、そうなった時被害者に原因があるかのようにセカンドレイプされる事が容易に想像がつく。

なので性欲を押し付けられさえしなければ、ショルダーバッグは斜めがけしたいが、リスクがあるので避けるという選択になる。
これひとつ取ったら些細な防犯だ。しかし女性の日常には「そうすれば合理的なのに性犯罪に合わないためにやらない選択肢」が男性に比べて山ほどある。
それは例えば夜コンビニに行かないことや、夜1人で出歩かない・ジョギングしない、住む場所やマンションの階数が限られたり、好きな服装を諦めたり、男女混合のジムやトイレを使わないことである。
一つ一つ選んで避けている。万人に開かれており女性だって選んでいいはずの物であっても、女性にとっては男性の犯罪者から被害に遭う危険を伴う選択なのだ。

例に挙げた避ける選択肢は、当然ながら何も法律で決まっていることではない。
女性だってマンションの1階に住んでもいいし、夜にコンビニに行ってもいい。当たり前だ。
では法律で決まっていないなら何を気にして女性らは同じ様に選択肢を避けているのか。

筆者は風潮であると思う。
性犯罪の被害に遭いやすくなり、助けを求めた先で被害者のその選択が原因だと責め立てられる風潮があるから、合理的な選択肢でもなるべく選ばないようにしている。
法律でなく風潮が、女性たちから便利な選択肢を奪っているのだ。

軽口から出たセクハラも含めて、性犯罪は加害者が悪い。それは当然として、これはエロだと思われる風潮があると被害に遭う可能性が高くなるから避けるのだ。

つまり今回の炎上は、マルちゃんのCMに文句を言わず受け入れたら将来的に「人前でうどんを食べる」が周囲の人を性的に煽る危険な行為になってしまうから。
これ以上選択肢を無くさない為の反発である。

現状は人前でうどんを食べても概ね問題ないと思うが、抗わねばパイスラッシュの様にアッサリ奪われてしまうのが選択肢だ。

炎上の中にも種類は数あるだろうが、この炎上が選択肢を守る権利の戦いであると認識している人はどれだけいるだろう。

いいなと思ったら応援しよう!