静けさだけが持つ言葉➖ハマスホイとデンマーク絵画➖

休日ということもあり人気の多い上野.
電車を降り、寒空の下上野公園を横切ると、あちらとこちらから賑わう声がしています.家族連れ、恋人、友達と.それでも冬の閑散とした空気の中だからか、どこか静かです.寒さに身を硬らせているせいかもしれません.

人混みが苦手な私は少し伏し目がちになり、足早に東京都美術館へと脇目も振らずに向かいます.はやる気持ちもありますが、必死に抑えます.これから拝見する絵画には焦りや高揚感は向きませんので.
でも、結局のところは自然と湧き上がる興奮を鎮火することじたい、無理な話のようでした.
世界で一番愛してやまない絵画が、とうとう日本に集結したのですから.

『ハマスホイとデンマーク絵画』

せっかくの企画展、おまけに土曜日、にも関わらずそれほど人気は多くありません.企画展示の平日観覧であるかのように人の密度が薄い.
これは美術館好きとしては、千載一遇のチャンスです.私の周りはこの展示について楽しみにしている方が多く、混み合うだろうと少しげんなりしておりましたが、コミュニティは狭い世界のなかで仕切られた戸棚のように、もっと限られたものであることを忘れていました.
兎にも角にも、あまり人を気にすることなく絵との対話に集中できそうです(偉そうにいっていますが、気に入った絵の前に佇むだけです).十人十色、長い間を絵の前に佇む人を線で結ぶと何ができるのでしょう、余談ですが.
企画展はスポットライトを浴びる画家を見に来ることが主目的ですが、予想だにせず、思いがけない出会いもあるものです.それが面白い.
今回はクプゲ、ヨハンスン、フィリプスン、ボウルスンといった北欧画家に出会えました(私は北欧画家が肌に合うのかもしれません.普段はこんなに出会えませんもの)
私見ですが、北欧の画家は対象の輪郭をぼやけさせるものが多いと感じます.人や風景にしても、被写体が空気の中に溶け込むのです.その上、彩度が低く自分の中に感じる絵画の空気が重い.
少し触れるのを躊躇してしまう静けさを日常で感じたことはありませんか?北欧絵画は正に静と動で言えば、静でしょう.
けれどもそんな陰鬱さを緩和してくれるかの様に、余白の使い方がとても上品で、少しの安心感が生まれます.大袈裟かもしれませんが、この必要とされた余白から物語が聞こえてくる気がするのです.

静けさとは時に何も聞こえないことを指しますが、決してそんなことはありません.静寂だけが持つ言葉、それはインスピレーションと呼ばれるものかもしれません.
静かな空気を通して地平から聞こえる哀愁や物語、恋人の囁き、家族の談笑.人によって聞こえるものは様々です.私は好きな絵と対話します.何かを語りかけるものがある、そして耳を傾けるだけでよいのです.いつのまにか絵のそばに佇まずにはおれませんから.

追伸:本日私はCHANELの香りを身にまとい、観覧に臨みました.これはハマスホイの質素さと華美に彩らない彼の画風にインスパイアされたCHANELが、敬意を払ったことを模したものです.
私のエゴですが、観覧中とても良い香りに包まれて幸せでした.

終わり

#美術館 #ブログ #ハマスホイとデンマーク絵画 #エッセイ

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